シリーズ『おしえて論文作成』では、論文作成における留意点を紹介していきます。
「Part 6 あいまいな表現を避けよう」の後半としまして、文法上の注意点についてお話させていただきます。

目次

1.前回のおさらい

前回は「あいまいな表現を避けよう」の前半としまして、名詞や代名詞において、あいまいな表現を避ける方法についてお話しました。

★前回のコラムは、こちら↓★
https://www.xn--79q34w.com/staff-blog/2023.02.07.1841/

論文のキーワードとなる言葉は、代名詞や同義語で置き換えると印象に残りづらくなるので、繰り返し登場させましょう。また、読者が理解できない専門用語や抽象的な表現は使わず、誰が読んでもわかりやすい用語を使うようにしましょう。さらに、単語が連続していると、読者はそれらの単語が互いに関連していると感じますが、語順や記号の使い方に注意し、関連性が正しく伝わるか確認が必要です。また、補足情報を追加する際には、関係代名詞を使うことも効果的です。

今回は、名詞や代名詞において、あいまいな表現を避けるためのヒントをお話しいたします。

2.動詞-ing形のあいまいさを避ける

はじめに、前回ご紹介した関係代名詞と同じような効果をもつ動詞-ing形の用法についてお話いたします。このweb講座の第2回で、動詞は主語の直後に置くことが原則だということをお話いたしました。
これは-ing形においても同様であり、原則として修飾する名詞の直後に置きます。しかし、主語が複数の動詞をとっている場合、こちらの修正前の例文のように-ing形が何にかかっているのかが分かりにくくなっています。そのような場合は、修正後の例文のように接続詞や前置詞を使ったり、文の構造を変えたりすることで文意を明確にしましょう。

<Example~文意を明確にする~>

  • 修正前:Mr. Li teaches the students having a good level of English.
  • 修正後:Mr. Li teaches the students since he has a good level of English.

具体的なテクニックとしては、since, because, by, thus, andなど接続詞や前置詞の挿入、能動形への変更やセンテンスの分割が挙げられます。状況に応じて動詞-ing形の使用にこだわらないという判断も必要です。

<Point~文意を明確にするテクニック~>

  • ①since, because, by, thus, andなど接続詞や前置詞の挿入
  • 能動形に変更し、動詞の主語を明確にする
  • センテンスを分ける

3.不可算名詞と冠詞の注意点

続いて、不可算名詞と冠詞を使う際の注意点についてお話いたします。不可算名詞とは、抽象的な概念や不定形の物質など、数えられないものを指し、動詞などは単数形を用います。

<Point~不可算名詞とは~>

抽象的な概念や質、小さすぎる、不定形 (液、粉、ガスなど) で数えられないもの

文中ですでに出てきた不可算名詞に言及する際、誤ってtheyなど複数形の代名詞やmanyなど数量を示す形容詞を用いると、読者の混乱を招いてしまいます。不可算名詞を繰り返すときは、代名詞に置き換えない方が安全です。

また冠詞が違うだけで、文の意味が変わってくるので、使い分けには注意が必要です。こちらに3つの例を示しました。

<Example~定冠詞と不定冠詞~>

  • 例1: The study revealed that X can cause cancer.
  • 例2: One study revealed that X can cause cancer.
  • 例3: Our study revealed that X can cause cancer.
  • (1, 既出の研究 2, 複数あるうちの1つ 3, 自分たちの研究)

Theを使うと既出の研究を指すことになり、oneを使うとすでに複数の研究に言及しており、そのうちの1つを指すことになります。自分たちの研究に言及する際、theでも読者にわかってもらえますが、ourを使うとよりわかりやすくなります。わずか1語が違うだけでも文の意味が変わってくるので、注意が必要です。

4.既出の情報の取扱い

次に、既出の情報の取扱いについてお話いたします。前述、または後述した内容に言及するとき、あいまいな表現を使うと何を指しているのかわかりにくくなってしまいます。the formerthe raterなどは、指し示す言葉をそのまま表現することでわかりやすくなります。これは指し示す内容が離れている場合は非常に有効であり、キーワードを繰り返すことで読者の理解が深まります。
また、as mentioned aboveなどは、論文内のどこを指しているのかを明確に示すことで正しい情報を参照してもらえます。具体的な言葉を使うことで、読者にとって理解しやすく、記憶に残りやすいと言えます。

5.難しい表現に注意

最後に、難しい表現を使う際の注意点をお話いたします。ラテン語に由来する表現は、筆者には意味がわかっても、読者が知らなければ使う意味がありません。投稿先の過去の論文を確認し、あまり使われていないようであれば、英語の平易な表現に書き換えるようにしましょう。

<Example~ラテン語に由来する表現~>

  • i.e. (すなわち)
  • e.g. (例えば)
  • a priori (はじめに)

また、同じような綴りでも意味が異なる言葉や、下の例文のように1文字違うだけで全く意味が変わってしまう言葉があります。

<Example~同綴異義語~>

同じような綴りで意味が異なる言葉

  • alternately (交互に) / alternatively (別の方法で)
  • sensible (賢明な) / sensitive (敏感な)

<Example~誤字で意味が変わる言葉~>

  • :There are three solutions to asses. (ロバ)
  • :There are three solutions to assess. (評価)

wordなどのスペルチェックでは、文法的に誤りが無く、実在する言葉であれば警告が出ませんので、ご自分や共著者でよく確認したり、ネイティブスピーカーによる英文校閲を受けたりするなどしてミスをなくしていきましょう。

今回は、あいまいな表現を避けるために、名詞や代名詞を使う際に気を付けることについてお話しました。
次回は、「Part 7 [Who+Did+What]の構造を明確にする」としまして、文中で誰が何をしたのかを明確にする方法についてお話しします。ご清聴ありがとうございました。