シリーズ『おしえて論文作成』では、論文作成における留意点を紹介していきます。
「Part 9 研究限界の書き方」としまして、研究の限界を考察することの重要性や、否定的な結果の上手な提示方法についてお話しいたします。

1.前回のおさらい
前回は「Part 8 研究結果を強調するテクニック」としまして、論文を執筆する際に研究結果を効果的にアピールする方法についてお話しました。
★前回のコラムは、こちら↓★
https://届出.com/staff-blog/2023.03.03.1900/
研究成果の重要性が高くても、強調不足、説明不足によって読者に理解してもらえなければ、意味がありません。読者には研究分野に詳しくない人もいるかもしれませんので、誰が読んでも文中で重要性を述べている箇所を容易に発見できるようにしなければなりません。人の目は、他の部分と違う特徴があると引き付けられやすいという性質がありますので、注目して欲しい箇所に記号や数字を利用したり、図表や見出しを使ったりして、視覚的に目立たせるのが有効です。
また、不要な言葉は使わず、できるだけ具体的な言葉を使って、研究の重要性を簡潔に示すことも必要です。さらに、データの妥当性を説得するためには、自分にとって不利な点についても正面から対峙しなければなりません。読者が結果を理解するために十分な情報を提供し、論理的に問題を解決することが大切です。
今回は、研究の限界を開示する方法や、否定的な結果の上手な示し方をご紹介いたします。

2.研究限界は前向きに開示する
はじめに、研究限界を開示する方法についてお話いたします。
<Question>
どの技術英語の教科書にも、研究の限界について述べることが重要であると書かれていますが、それはなぜでしょうか?
<Answer>
研究には不確実性がつきものであり、期待した結果ではなかったとしても、適切に行われた研究の結果であれば、データの質が悪いわけではありません。したがって、研究に何らかのミスはなかったのか、研究の方法に限界がなかったかを提示することで、研究の妥当性を示すことが目的です。
研究限界は著者にとっては否定的な結果かもしれませんが、否定的な言葉は使わずに事実を客観的に報告することが大切です。他の研究者が論文を読んで、あなたの経験から学べるように建設的に研究限界を提示するようにしましょう。
<Example~否定的なトーンを緩和~>
- 修正前: The limitation of this paper is that the two survey were unfortunately not conducted in the same period.
- 修正後: Although the two surveys were not conducted in the same period, this will only affect our results in terms of ….
修正前の例文では、limitationとunfortunatelyというネガティブな言葉を重ねて使用しています。一方、修正後の例文では、肯定的な内容が続くことを示唆するalthoughを使用し、onlyを使うことで否定的な度合いを軽減することで、否定的なトーンを緩和しています。

3.研究限界を示すスタンス
続いて、研究限界を示すスタンスについてお話いたします。
研究限界を示す際には、どのような限界だったのか、理由や結論への影響など、その意義を明確に説明する必要があります。重要なのは、正直であること、明確であること、必要に応じて対応策を示すことです。また、著者が研究限界の直接的責任を負うことで信頼を失わないよう、受動態や非人称形 (It) を用いて書くこともできます。
さらに、読者から様々な反論があることを覚悟し、あらかじめ自分のデータに対する解釈の代替案を示しておくのも良いでしょう。自分の考えを主張しすぎないことで、説得力を増すことができます。このように、自分の研究を過大あるいは過小評価することの無いよう、研究限界を公正公平に記載することが重要です。

4.研究限界が生じた理由の説明
次に、研究限界が生じた理由について説明する方法をお話いたします。技術上の問題によって研究限界が生じた場合、同じような研究限界を経験した研究者が他にもいることを紹介し、その文献を引用することがアプローチの一つとして挙げられます。
また、現在の理論やモデル、テクノロジーでは問題を解決できないことが理由である場合もあるかもしれません。その場合、現在の知見では問題解決が不可能である理由を多面的に説明した上で、知見不足を唯一の理由にする必要があります。データに関連する研究限界としては、データの収集時と現在では状況が異なる可能性がある場合や、研究データの量が不足している場合などが挙げられます。研究しなかったデータについては、考察や結論のセクションで背景や理由を説明しましょう。いかなる場合であっても、研究限界が生じた理由をしっかりと説明することが重要です。

5.研究限界で著者の意見を述べる場合
最後に、研究限界で著者の意見を述べる場合についてお話いたします。研究データをどのような観点で解釈、判断して欲しいかを読者に伝える方法として、研究結果を客観的に提示することが挙げられます。
<Example>
- 例1: In this view, these data may mean that ….
- 例2: From an X point of view, the results can be interpreted ….
- 例3: These data indicate that ….
こちらに示した3つの例文では、慣用的な表現の他に、所有格を使わずに研究データを主語にして客観的に表現する手法が用いられています。研究結果を客観的に示すことで信頼性が向上し、 読者を議論に巻き込みやすくなります。
また、研究限界を述べる際の注意点として、論文の最後に提示しないことが挙げられます。論文の最後は、研究成果の有用性や応用可能性、研究の将来の発展可能性など、肯定的な言葉で締めくくることが望ましいです。
今回は、研究の限界を考察することの重要性や、否定的な結果の上手な提示方法をお話しました。
次回は、「Part 10 他者の研究への言及」としまして、論文内で他者の研究について言及する際の注意点についてお話しします。ご清聴ありがとうございました。
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