1 概要

現在に至るまで、様々な臨床研究に関する論文が発表されてきました。しかし、統計の適用、分析、解釈、報告、研究デザインに誤りがある論文が散見されています。多くの誤りは、高度な統計手法ではなく、基本的な統計処理にあります。本稿は、2013年に公開された「Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”」の内容に基づき、臨床試験の統計関連業務に携わる全ての方に向けて統計報告の仕方のヒントをまとめます。

2 リスク、割合、比の報告

本稿では、「Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”」の「リスク、割合、比の報告 (Reporting risk, rates, and ratios)」についてまとめます。

2.1 記載内容

「Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”」にはリスク、割合、比の報告について以下のような記述がなされています。

Identify the type of rate (e.g., incidence rates; survival rates), ratio (e.g., odds ratios; hazards ratios), or risk (e.g., absolute risks; relative risk differences), being reported.

報告される割合(例: 発生率、生存率)、比(例: オッズ比、ハザード比)、リスク(例: 絶対リスク、相対リスク差)の種類を明らかにする。
Identify the quantities represented in the numerator and denominator (e.g., the number of men with prostate cancer divided by the number of men in whom prostate cancer can occur).

分子および分母に表される量を特定する(例: 前立腺がん患者の数を前立腺がんが発生しうる男性の数で割る)。

Identify the time period over with each rate applies.

各割合が適用される期間を特定する。

Identify any unit of population (that is, the unit multiplier: e.g., x 100; x 10,000) associated with the rate. 率に関連する人口の単位(例: 単位倍率は×100、または×10,000)を明らかにする。

Consider reporting a measure of precision (a confidence interval) for estimated risks, rates, and ratios.

推定されるリスク、率、比の精度の指標(信頼区間)を報告することを検討する。

2.2 リスク、割合、比の報告を記載する

●臨床試験で使われる割合や比率の指標

リスク比とオッズ比

オッズとは、特定の結果が観測された事例数を観測されなかった事例数で割った割合であり、
オッズ比とは、原因がなかった場合に結果が観測されるオッズに対して、原因があった場合のオッズの比のことを指します。オッズ比が2倍になったからといって、原因が存在することによって結果が観測される確率が2倍になるとは言えないという点で注意が必要です。
リスクとは特定の集団全体の中で結果が観測される確率であり、原因がなかった集団において結果が観測されるリスクに対する、原因があった集団のリスクの割合をリスク比、または相対リスクといいます。
これらの比が1を取るとき、原因 (=介入)の有無によって結果が生じる確率は等しいと見なすことができます。試験結果の解釈においては、比の信頼区間を算出し、その下限が1を上回る (=比が1になる確率が十分に低いと言える)場合、介入が存在することで結果が観測される確率が上昇すると判断します。

  アウトカム (例: 特定のイベントの発生)  
介入   あり なし  
あり a b a+b
なし c d c+d
  a+c b+d a+b+c+d

オッズ比: (a/b)/(c/d) = ad/bc
リスク比: (a/(a+b))/(c/(c+d)) = a(c+d)/c(a+b)

比率の差の検定

集団の中で特定のイベントが生じた割合をパーセンテージで表す場合があります。その場合に介入の効果の有無を検証するには、介入群と対照群の発現率の差が十分に大きければ介入がイベントの発生に影響を及ぼしたと見なすことができます。各群の母集団においてイベントが発生する確率 (母比率)の差の信頼区間を算出し、その信頼区間の下限が0を上回る、または上限が0を下回る (= 信頼区間が0を跨がない、差が0になる確率が十分に低い)場合、介入の影響で発現率が変化したと判断します。

3 記載例

・ 介入群および対照群において、それぞれ●● (観測対象となるバイオマーカーなど)の測定値が改善した試験参加者の症例数と割合を示す。対照群に対する介入群のオッズ比とその95%信頼区間を算出する。

4 参考文献

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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