1 概要

現在に至るまで、様々な臨床研究に関する論文が発表されてきました。しかし、統計の適用、分析、解釈、報告、研究デザインに誤りがある論文が散見されています。多くの誤りは、高度な統計手法ではなく、基本的な統計処理にあります。本稿は、2013年に公開された「Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”」の内容に基づき、臨床試験の統計関連業務に携わる全ての方に向けて統計報告の仕方のヒントをまとめます。

2 補足的な解析

本稿では、「Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”」の「補足的な解析 (Supplementary analyses)」についてまとめます。

2.1 記載内容

Describe methods used for any ancillary analyses, such as sensitivity analyses, imputation of missing values, or testing of assumptions underlying methods of analysis. 感度分析、欠損値の代入、解析方法の基礎となる仮定の検定など、補助的な解析に使用した方法を記述する。
Identify post-hoc analyses, including unplanned subgroup analyses, as exploratory. 計画外のサブグループ解析などの事後解析は探索的解析とする。

2.2 補足的な解析を記載する際の留意事項

主要アウトカム、感度分析及び補足的な解析の結果は、それぞれの解析が事前に規定されていたか、試験の盲検性が維持されている間に導入されたのか、又は事後的に実施されたのかを明記した上で、研究総括報告書において記載することが重要になります。

●感度分析 (sensitivity analyses):

感度分析は臨床研究の結果を歪める可能性のある非ランダムエラーをバイアスの潜在的な大きさと方向を推定しモデル化することです。非ランダムエラーの原因を特定することにより、より正確な測定、検証研究、またはより交絡因子の測定が必要な場合など、研究改善のための生産的な手段について議論する機会を提供することができます。

●欠損値 (missing value) の代入:

欠損値があった場合には以下の方法で対処することが出来ます。

  • ①リストワイズまたはケースの削除: 欠損データのあるケースを単純に省略し、残りのデータを分析すること方法です。
  • ②ペアワイズ削除: 特定のデータポイントが欠損している場合にのみ情報を削除する方法です。
  • ③平均置換: 同じ変数の欠損データ値の代わりに、変数の平均値を使用する方法です。
  • ④回帰代入: 欠損値のあるケースを削除する代わりに、欠損データを他の利用可能な情報によって推定された推定値に置き換える方法です。
  • ⑤最後の観測の繰り越し (LOCF): 欠損しているすべての値を、同じサブジェクトからの最後の観測値に置き換える方法です。
  • ⑥多重代入: 欠損値は、正しい値の自然変動と不確実性を含む一連のもっともらしい値に置き換える方法です。

臨床試験において、ほとんどの場合欠損データが生じる可能性があるため、事前にどのアプローチで欠損値を補完するかを試験計画書に記載することが推奨されています。

●解析方法の基礎となる仮定の検定 (testing of assumptions underlying methods of analysis):

2標本の検定を行う場合では以下の4つの前提条件を試験計画書に記載することが望ましいです。

  • ①標本の代表性
  • ②データの独立性
  • ③分布の正規性
  • ④分布の等分散性

このほかにも用いる解析手法に応じて、前提条件が異なることがありますので、適宜記載に注意する必要があります。

●サブグループ解析及び事後解析 (post-hoc analyses, subgroup analyses):

サブグループ解析では、元々の群からグループの抽出を行うため検出力の低下が起きることに留意する必要があります。また、事前に指定されたサブグループ分析は、事後分析よりも信頼性が高いため、試験計画書に記載することが望ましいです。

3 記載例

  • ・●●●●は●●●の層別解析を行う
  • ・試験中に得られたデータにおいて、欠損値が発生した場合は●●●を用いて欠損値の補完を行う。
  • ・得られたベースラインにおけるデータは分布の正規性と等分散性の検定を行うこととする。
  • ・サブグループ解析において、●●●と●●●を交絡因子とした解析を行う。

4 参考文献

  • Lang TA, Krishan A, Altman DA. Basic Statistical Reporting for Articles Published in Biomedical Journals: The “Statistical Analyses and Methods in the Published Literature” or “The SAMPL Guidelines”. The EASE Science Editors’ Handbook. 2013: 1-8. (https://www.equator-network.org/wp-content/uploads/2013/03/SAMPL-Guidelines-3-13-13.pdf)
  • Lash TL, Fox MP, MacLehose RF, Maldonado G, McCandless LC, Greenland S. Good practices for quantitative bias analysis. International Journal of Epidemiology. 2014; 43 (6): 1969–85. DOI: 10.1093/ije/dyu149
  • Kang H. The prevention and handling of the missing data. Korean J Anesthesiol. 2013; 64 (5): 402–6. DOI: 10.4097/kjae.2013.64.5.402
  • 阿部貴行, 佐藤裕史, 岩崎学. 医学論文のための統計手法の選び方・使い方. 東京図書. 東京. (2013)

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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