前回の届出Newsに引き続き、今回もカナダ保健省健康製品食品局が、申請された健康食品のヘルスクレームに対して適切な科学的根拠があるとした理由等について、ご紹介させていただきます。
今回は、その中で「大豆タンパク質によるコレステロール値の低下に関する科学的根拠」の科学的根拠部分についてお伝えします。来週は、このヘルクレームに準拠した食品のラベルの表示方法などをご紹介いたします。

機能性表示食品のLDLコレステロールの低下については【第16回届出News】、飽和脂肪酸およびコレステロールと冠動脈性心疾患については【第41回届出News】、大豆タンパク質と冠動脈性心疾患については【第50回届出News】、多糖類複合体によるコレステロール値の低下に関する科学的根拠については【第55回届出News】にてご紹介しておりますので、是非ご覧ください。

大豆タンパク質によるコレステロール値の低下に関する科学的根拠1)

背景

2011年、カナダ保健省健康製品食品局は、タンパク質が豊富な大豆食品とコレステロール値の低下に関するヘルスクレームの申請を受理しました。以下の情報はカナダ保健省が「Guidance Document for Preparing a Submission for Food Health Claims」2)に基づいて評価し、その要約がまとめられていました。

本ヘルスクレームに対する科学的根拠について

提案されたヘルスクレームの対象となる食品は、大豆 (Glycine max(L.) Merr., Fabaceae) 由来のタンパク質を含有する食品もしくは食品成分であるとしています。ヘルスクレームの資格がある食品と成分は、豆乳、豆腐、味噌、テンペ (テンペ菌を用いた大豆の発酵食品)、納豆、大豆チーズ (イミテーションチーズ)、大豆ナッツ、単離大豆タンパク質 (ISP)、大豆タンパク質濃縮物 (SPC)、繊維状大豆タンパク質 (TSP)、大豆粉 (SF)であり、醤油や大豆油は大豆タンパク質の含有量が不足しているためヘルスクレームの対象から除外されていると述べています。

本ヘルスクレームの申請者は、1980年から2010年までに報告された研究の文献レビューを行っていました。追加でカナダ保健省健康製品食品局によって2013年3月までに報告された研究の調査を実施しています。
その調査から本ヘルスクレームの科学的根拠として合計79個の研究を含んだ49本の文献が選定されたと述べています。

科学的根拠として選定された79個の研究は以下のような特徴を含んでいたと述べています。

  • ① すべての研究は健常者もしくは高コレステロール血症の者を対象としていた。
  • ② アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアで実施され、大半はアメリカであった。
  • ③ 31個の研究は男女両方を対象としていた。
  • ④ 20個の研究は男性を対象としており、そのうち8個は若い男性を対象としていた。
  • ⑤ 28個の研究は女性を対象としており、そのうち24個は閉経後の女性を対象としていた。
  • ⑥ 試験期間の範囲は1ヶ月から12ヶ月であった。
  • ⑦ 大豆タンパク質の一日の摂取量の範囲は11.3 gから154.0 gとしていたが、大多数の研究では、大豆タンパク質の一日の摂取量を25 gから50 gの範囲に設定していた。
  • ⑧ 最も規模が小さい研究の症例数は9人であり、最も規模が大きい研究の症例数は352人であった。
  • ⑨ 41個の研究はクロスオーバー試験であり、38個の研究は並行群間比較試験であった。
  • ⑩ 69個の試験でランダム化がなされていた。
  • ⑪ 40個の研究では二重盲検、4個の研究では単盲検で実施された (残りの研究は盲検化に関して報告していなかった)。
  • ⑫ 44個の研究で被験食品群と対照群でカロリーと主要栄養素が調節され、その栄養成分表が報告された。

研究中で使用された大豆タンパク質に関しては以下のように述べています。

  • ① 主に使用された大豆タンパク質は高純度大豆製品であった。
  • ② ISPは65個の研究で使用され、そのうち3個の研究ではISPを原料とした豆乳が使用された。
  • ③ SPCは2個の研究で使用された。
  • ④ 丸大豆を原料とした豆乳は2個の研究で使用された。
  • ⑤ TSPは1個の研究で使用された。
  • ⑥ SFは2個の研究で使用された。
  • ⑦ 豆腐は1個の研究で単独で使用され、1個の研究では他の大豆食品と共に使用された。
  • ⑧ 大豆ナッツは6個の研究で使用された。
  • ⑨ 53個の研究では大豆食品のイソフラボン含有量が報告されていた。
  • ⑩ 8個の研究ではイソフラボンを除去した大豆タンパク質 (エタノール洗浄した大豆タンパク質) が使用された。
  • ⑪ プラセボ群はカゼイン、乳タンパク質、動物性タンパク質たんぱく質 (肉類)、大豆タンパク質を含まない対照食で構成された。
  • ⑫ 60個の研究では、通常の食事もしくはコレステロール値の低下を目的とした食事 (※) における動物性タンパク質の一部または全体の代替えタンパク質として使用された。
  • ⑬ 19個の研究では通常の食事に大豆タンパク質を追加して摂取された。

※例としてアメリカ国立衛生研究所-国立心肺血液研究所 (NIH-NHLBI: the U.S. National Institutes of Health – National Heart, Lung, and Blood Institute) の全米コレステロール教育プログラムや3)、NIH-NHLBI 治療的ライフスタイル変更ガイド (NIH-NHLBI Therapeutic Lifestyle Changes guide)4) の食事が挙げられます。

設定されたアウトカムは総コレステロール値、低密度リポタンパク質 (low-density lipoprotein: LDL) コレステロール値、高密度リポタンパク質 (high-density lipoprotein: HDL) コレステロール値、トリグリセリド (triglycerides: TG) 値の変化量であった述べています。
79個の研究のうち、77個の研究で総コレステロール値、67個の研究でLDLコレステロール値、78個の研究でHDLコレステロール値、72個の研究でTG値に対して、大豆タンパク質の摂取が与える影響を報告したと述べています。
成人における心血管疾患予防のための脂質異常症の診断と治療のカナダ心血管学会ガイドライン 2012年版 (the 2012 Update of the Canadian Cardiovascular Society Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Dyslipidemia for the Prevention of Cardiovascular Disease in the Adult)5) において、LDLコレステロールは心血管疾患のリスクを低下させる主要な標的であると述べています。

ヘルスクレームの記載について

カナダの食品医薬法第3条6)は、製品の表示や広告に関して、一般消費者に向けて一覧表A7)に記載されている疾患の治癒、治療、予防に言及することを禁じています。一覧表Aには動脈硬化症が含まれており、最も典型的な心血管疾患であるCHDは動脈硬化症と同義語として使用されることが多いため、規制が改正されるまで心血管疾患に関するヘルスクレームは禁じられると述べています。

2016年12月14日、カナダ保健省は規制改正を発表し、カナダの市場で販売される野菜や果物に心血管疾患に関する下記のヘルスクレームの表示を許可しました。
『野菜や果物が豊富に含まれる健康的な食事は、心血管疾患の発症リスクの低下を助けると考えられています。』

研究の質は、潜在的なバイアスの主な原因を特定するためのSIGN (Scottish Intercollegiate Guidelines Network)6) の基準のランダム化、割付けの秘匿化、盲検化、脱落を含む4項目を用いて評価したとしています。
被験食品群とプラセボ群の間で食事のカロリーと主要栄養素が調節されていない研究は、質が低いと評価し、総合的な研究の質の判断は基準をいくつ満たしているかに基づいて行われたとしております。79個の研究のうち24個の研究 (30%) の質が高いと評価されたと述べています。

大豆タンパク質を摂取した際の、総コレステロール値の低下と、LDLコレステロール値の低下は、79個の研究のうちそれぞれ75%と81%の研究で確認され、一貫性が高く、少数ではありますがそれぞれ26%と33%の研究で統計的な有意差が確認されたと述べています。質が高い研究に限定したときにも類似した結果が得られるとしています。
HDLコレステロール値の上昇の一貫性は中程度であり、質が高い研究に限定した際には高い一貫性が確認されたと述べています。統計的に有意な上昇が確認された研究は全体の15%でした。
TG値の低下の一貫性も中程度であり、11%の研究で統計的な有意差が確認され、質が高い研究に限定したときにも類似した結果が得られるとしています。
カナダ保健省健康製品食品局は、申請者が行ったメタアナリシスを再現し、申請者のシステマティックレビューやメタアナリシスに含まれていない研究を加えた新たなメタアナリシスを実施しました。2つのメタアナリシスの結果は類似していたと述べています。以下には健康製品食品局のメタアナリシスにおける推定値をまとめています。

総コレステロールに関しての68個の研究を含む42本の文献、LDLコレステロールに関しての59個の研究を含む38本の文献、HDLコレステロールに関しての68個の研究を含む43本の文献、TGに関しての64個の文献を含む40本の文献がメタアナリシスにおいて使用されたとしています。
被験食品群およびプラセボ群の最終的な値を各研究から抽出しメタアナリシスに使用したと述べています。

大豆タンパク質の摂取の摂取したときの総コレステロール値とLDLコレステロール値の加重平均の差はどちらも−0.15 mmol/Lであり、それぞれ約2.6%と4.0%の統計的に有意な低下であったと述べています。HDLコレステロール値とTG値の加重平均の差は、それぞれ+0.03 mmol/Lと−0.06 mmol/Lであり、どちらも統計的に有意であったと述べています。

全体の解析に加えて、大豆タンパク質のコレステロール値低下作用に対して下記の要因が与える影響を調査するためにサブグループ (SG) 解析が行われたとしています。

  • ① ベースラインの平均総コレステロール値によるSG
    ⇒5.2 mmol/Lより高い総コレステロール値と5.2 mmol/L未満の通常コレステロール値の比較
  • ② 大豆タンパク質食品によるSG
    ⇒高純度大豆製品 (ISP、ISPが原料の豆乳、SPCなど) とその他の大豆食品 (丸大豆が原料の豆乳、豆腐、SF、TSP、大豆ナッツ)
  • ③ イソフラボンの有無によるSG
  • ④ 試験デザインによるSG
    ⇒並行群間比較試験とクロスオーバー試験
  • ⑤ 性別によるSG
  • ⑥ 食事によるSG
    ⇒通常の食事と心血管の健康維持に推奨される食事
  • ⑦ 大豆タンパク質の摂取方法によるSG
    ⇒食事に追加した摂取方法と食事における動物性タンパク質の代替えによる摂取方法
  • ⑧ 研究の質の高低によるSG
  • ⑨ 被験食品群と対照群におけるカロリーと主要栄養素の調節の有無によるSG

SG解析の結果はLDLコレステロール値においてのみ下記に記載したと述べています。

LDLコレステロール値の低下は、イソフラボンを除去したISPを用いた研究のみを考慮した場合を除き、すべてのサブグループで同様であり、統計的に有意であったと述べています。
SG間同士では、②のSGを除き統計的な有意差は認められなかったと述べています。

SG解析の結果を確認するための回帰分析において、性別のみがLDLコレステロール値の低下効果に影響を与えおり、女性もしくは男女両方を対象とした研究と比べて、男性を対象とした研究において効果が大きかったと述べています。
回帰分析の結果、大豆タンパク質中のイソフラボンの有無がLDLコレステロール値の低下効果に影響しませんでしたが、イソフラボンが含まれない大豆タンパク質を用いた研究の数が少なく、議論の余地があるとしています。

大豆タンパク質は用量依存的にLDLコレステロール値を低下させるかどうかは明らかにすることができず、最も使用されていた用量である一日25 gが最小の効果的な摂取量であると述べています。

以上をまとめると、科学的根拠が大豆タンパク質の摂取による総コレステロール値およびLDLコレステロール値の低下作用を一貫して支持していたと述べています。メタアナリシスによって大豆タンパク質の摂取は総コレステロール値およびLDLコレステロール値を統計的に有意に低下させ、HDLコレステロール値やTG値に悪影響を及ぼすことはないことが明らかになったとしています。

カナダ保健省は大豆タンパク質の摂取によるコレステロール値の低下は一貫性が高く、ヘルスクレームを支持する科学的根拠が存在すると結論付けております。
2009年から2011年における6歳から79歳のカナダ人の約39%の総コレステロール値が5.2 mmol/L以上 (成人において不健康とされる値) であることを考慮すると、本ヘルスクレームはカナダ人に関連し、適応可能であるとしております。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】

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