前回の届出Newsに引き続き、今回もアメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administra-tion; FDA) が発行するガイダンスについてご紹介します。今回は、「ナトリウムと高血圧」についてお伝えします。『心血管に対する機能性評価 (血液マーカー)』、『心血管に対する機能性評価 (血管機能)』に関する欧州食品安全機関のガイダンスについては、【第37回届出News: 心血管に対する機能性評価 (血液マーカー)】、【第38回届出News: 心血管に対する機能性評価 (血管機能)】、『飽和脂肪酸およびコレステロールと冠動脈性心疾患』、『水溶性食物繊維と冠動脈性心疾患』に関するアメリカ食品医薬品局ガイドラインについては、【第41回届出News: 飽和脂肪酸およびコレステロールと冠動脈性心疾患】、【第46回届出News: 水溶性食物繊維と冠動脈性心疾患】にてご紹介しておりますので、是非ご覧ください。

●FDAガイダンス

~ナトリウムと高血圧ついて~1)

a) ナトリウムと高血圧 (hypertension, high blood pressure)との関係

高血圧 (hypertension, high blood pressure) は、一般的に収縮期血圧が140 mmHg以上、または拡張期血圧が90 mmHg以上の状態を指します。正常血圧 (normotension, normal blood pressure) は、収縮期血圧が140 mmHg未満、拡張期血圧が90 mmHg未満の状態をいいます。ナトリウムは、化学物質または電解質である「ナトリウム」として規定されており、39重量パーセント濃度 (w/w%) のナトリウムを含む塩化ナトリウム (食塩) とは区別されるとしています。
ナトリウムを多く含む食事は、高血圧の発症率が高いだけでなく、加齢に伴う血圧の上昇と関連することが報告されており、またナトリウムが少ない食事では、加齢に伴う血圧の上昇が少ない、または全くないことが分かっています。

b) ナトリウムと高血圧の関係の重要性

高血圧は、主に冠動脈性心疾患と脳卒中による死亡に関連する、主要な危険因子であるため、公衆衛生上で関心の高い問題です。高血圧を早期に改善することは、冠動脈性心疾患や脳卒中における死亡率の減少に重要な役割を担っています。血圧の上昇は、死亡のリスクと非常に関連深いことが分かっています。高血圧の者が最もリスクが高く、血圧が中程度に高い者、血圧が正常値であるが高めの者、正常血圧の者の順に、血圧が低くなればなるほど、死亡リスクが下がっていきます。研究によれば、ナトリウムの摂取量を減らすことで、多くの高血圧患者の血圧を下げ、高血圧に関連する疾病リスク (冠動脈性心疾患など) を下げることが出来るとしています。しかし、これらの結果がすべての高血圧患者に当てはまるわけではないとしています。また、血圧が正常値であるが高めの者でも、ナトリウムの摂取量を減らすことで血圧が下がり、関連するリスクが下がることもわかっています。しかし、これについてもすべての者に当てはまる結果では無いとしています。
ナトリウム摂取量の減少は、高血圧の家族歴がある者、高齢者、男性 (女性より若年で高血圧を発症する可能性がある)、黒人の男性および女性に対して、有効である可能性が高いとされています。また、人口集団によって高血圧による疾患 (冠動脈性心疾患など) のリスクは異なりますが、高血圧は全ての人口集団にとって公衆衛生上で懸念される疾患であることは変わらないとしています。また、高血圧の発症に関連する危険因子は、ナトリウムやアルコールの摂取、肥満が関連すると報告されています。
アメリカでは、ほぼすべての人がナトリウムの推奨摂取量を超えているとされています。そのため、公衆衛生上で高血圧に関する事項は、重要視されており、食塩の摂取量を減らすことが推奨されています。アメリカ全体で見れば、平均的なナトリウムの摂取量を減らすことは、人口全体の平均的な血圧を下げ、その結果、冠動脈性心臓病や脳卒中による死亡率を下げることができると可能性があるため、ナトリウム摂取量の減少は微力ながらも、全体でみれば大きな効果をもつと考えられています。
なお、ナトリウムは必須栄養素であるため、専門家は、最低でも500 mg/日、最大で2400 mg/日の摂取を推奨しています (FDAの推奨1日摂取量)。

c) ナトリウムと高血圧の関係の要件

商品を販売する際は、連邦規則集21巻§101.142)に定められた要件 (機能性関与成分を含む食品成分の表示の方法、機能性関与成分の適格性および有効性・安全性の表示方法等) を満たすことが求められています。
食品のラベルまたは表示については、以下の条件を踏まえて、記載することが必要であると述べています。

  • 1.ヘルスクレームでは、ナトリウムが少ない食事は高血圧のリスクを低減させる「可能性がある」または「かもしれない」としていること。
  • 2.ヘルスクレームでは、疾患を特定する際に、「高血圧 (high blood pressure)」の用語を使用していること。
  • 3.ヘルスクレームでは、栄養素を特定する際に、「ナトリウム」の用語を使用していること。
  • 4.ヘルスクレームは、ナトリウムが少ない食事を摂ることによって、高血圧の発症リスクがいかなる程度の減少であったとしても、これらの食品の使用に起因すると説明してはならないこと。
  • 5.ヘルスクレームは、高血圧の発症リスクは多くの要因によっても引き起こされる可能性があるとすること。

また、連邦規則集21巻§101.613)に記載された「低ナトリウム」の要件を満たす必要があります。(「低ナトリウム」食品とは、対象となる食品の通常消費される基準量が50 gである時に、ナトリウム量が140 mg以下の時を指すと述べられています。)

d) ナトリウムと高血圧の任意の情報記載

ヘルスクレームを記載する際は、高血圧の家族歴がある者、高齢者、アルコール消費、および過体重も危険因子であることが記載できるとしています。
先述のa) および b) の情報も、食事中のナトリウムと高血圧の関係などを要約したものであるため、ヘルスクレームに記載することが出来るとしています。
ヘルスクレームは、アメリカ国内の冠動脈性心疾患の患者数に関する情報を含めて記載することが出来るとしていますが、この情報の出所を明らかにしなければならず、農務省 (U.S. Department of Agriculture; USDA) 及び保健福祉省 (Department of Health and Human Services; HHS) が発行する「Dietary Guide-lines for Americans」、国立衛生統計センター (National Center for Health Statistics; NCHS)、国立衛生研究所 (National Institu-tes of Health; NIH) からの最新の情報でなければならないとしています。
ヘルスクレームは、USDAおよびHHSが発行する「Dietary Guidelines for Americans」に準拠していることが求められています。
ヘルスクレームでは、栄養素を特定する際は、「ナトリウム」という用語に加え、「塩 (salt)」を用いることが出来るとしています。
ヘルスクレームでは、疾患を特定する際は、高血圧という単語について“high blood pressure”だけでなく、“hypertension”も用いることが出来るとしています。
本ヘルスクレームを謳った食品を販売する際のラベルには、高血圧の者は、医師に相談し、治療を受けるべきであることを表示しても良いとしています。また、高血圧また血圧の正常値を定義している場合、高血圧の者は医師に相談し、治療を受けるべきであることをラベルに表示する必要があると記載されています。

推奨されるヘルスクレームの記載例

  • ナトリウムが少ない食事は、多くの要因に関連する病気である高血圧のリスクを減らす可能性があります。
  • 高血圧または高血圧の発症は多くの要因に依存しています。●● (製品名) は、高血圧 (“hypertension” or “high blood pressure”) のリスクを減らす可能性のある低ナトリウム、低塩分の食事の1つとして有用である可能性があります。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】

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