1 概要

臨床試験においてランダム化は必要不可欠であることは皆様ご存知かと思います。しかし、なぜランダム化がここまで重要なのでしょうか。本稿では、ランダム化の実施する理由について解説したいと思います。

2 ランダム化とは

「臨床試験のための統計的原則 (ICH-E9)」には、ランダム化について以下の様に記載されています。

■ICH-E9 臨床試験のための統計的原則, 2.3.2 ランダム化 (無作為化)
ランダム化は、臨床試験において、被験者への試験治療の割付に意図的に偶然の要素を取り入れており、後に試験データを解析する際に、試験治療の効果に関する証拠の定量的な評価のための正しい統計的根拠を与える。また、ランダム化は予後因子が既知であるか未知であるかにかかわらず、予後因子の分布が類似した試験治療グループを作るために役立つものである。ランダム化は、盲検化と組み合わせることで、試験治療の割付が予見可能な場合に、被験者の選択的割付によって生じる可能性のある偏りを回避することに役立つものである。

つまり、「背景が類似したグループを2つ以上作り、それぞれのグループに別々の介入を行う」ということを示しています。では、わざわざ背景を類似させたグループを作成するより、背景が同一の1人に対して別々の介入を行い、介入間の効果を比較する試験でもいいのではないかと思われます。なぜ、このような試験が実現できなのかを解説します。

2.1 1人の症例に対する理想的なデザイン

ある1人の症例に対し、2つの介入 (介入A、介入B) を同時に行い、介入後の測定値をXA、XBとしたとき、次のようなデザインになります。

  時点t0 時点t1
介入A X0 XA
介入B X0 XB

したがって、効果量の計算式は、

となるので、介入間の効果を比較することができるか思われます。
しかし、実際には、XAとXBをそれぞれ独立して測定することはできないので、
effect size = XA = XB
となります。
では、測定時点をずらして介入Aと介入Bを行い、比較した場合はどうなるでしょうか。

2.2 一人の症例に対する時点を変えたデザイン

次のようなデザインだったとします。

  時点t0 時点t1 時点t2 時点t3
介入A X0 XA
介入B X2 XB

このようなデザインの場合、①介入Aで目的を達成すると介入Bの必要がなくなること、②介入Aの効果が介入Bで残存すること、③介入AとBで初期状態が異なることが問題になります。
以上の理由より、介入Aと介入Bに複数人割り付け、それぞれの介入グループにおいて平均的には類似した初期状態を確保することにより、比較可能性 (Comparability) を担保するデザインに進化してきました。

3 まとめ

本稿では、ランダム化の必要性について解説いたしました。臨床試験において、ランダム化は重要ですが、ランダム化の方法や、症例数も重要なファクターになります。ランダム化の方法については、「第55回生物統計学」、症例数の設計については、「第7回生物統計学」にまとめてありますので、ぜひご覧ください。

4 参考文献

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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