本メルマガでは、欧州食品安全機関 (European Food Safety Authority; EFSA) や、アメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administration; FDA) が発刊するガイダンス内容について、ご紹介させていただきました。しかし、欧州やアメリカ以外にも、機能性を付与した食品を販売する際のレギュレーションを設定している国があり、カナダの健康食品の審査に携わるカナダ保健省健康製品食品局では、健康食品のヘルスクレームに対する科学的根拠として、適切と判断したものをまとめたサイトが存在します。そこで、これからは、カナダ保健省健康製品食品局が、申請された健康食品のヘルスクレームに対して適切な科学的根拠があるとした理由等について、ご紹介させていただきます。
今回は、その中で「多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム) と食後の血糖値上昇の抑制」についてお伝えします。機能性表示食品の「血糖値の上昇を抑える」に関する最終製品の届出については【第8回届出News】、EFSAの「血糖に対する機能性評価」に関するガイダンス内容は【第27回届出News】にてご紹介しておりますので、是非ご覧ください。

●多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム) と食後の血糖値上昇の抑制に関する科学的根拠について1)

背景

2014年2月、カナダ保健省健康製品食品局は、多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム) と食後の血糖値の低下に関するヘルスクレームの申請を受理しました。カナダ保健省では「Guidance Document for Preparing a Submission for Food Health Claims」2)など、健康食品の販売を支援するためのガイダンスを発刊しており、多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム) と食後の血糖値の低下に関するヘルスクレームの科学的根拠の妥当性は、上記のガイダンスを基に評価したと述べています。

本ヘルスクレームに対する科学的根拠について

本ヘルスクレームの対象となった食品は、PGX® (PolyGlycopleX®) という商品 {水溶性・粘性の多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム)} です。PGX®は、カナダ保健省が食物繊維を含む食品に対しての定義や分析方法等をまとめた「Policy for Labelling and Advertising of Dietary Fibre-Containing Food Products」3)に基づいた商品であると述べています。
PGX®の申請者は、2008年から2013年までに行われた研究の文献レビューを行っていました。また、追加でカナダ保健省健康製品食品局によって2014年までに行われた研究の調査を実施しています。その調査から31本の論文や報告書が見つかり、その中の6本の論文や報告書が本ヘルスクレームの科学的根拠になるとしています。
PGX®の科学的根拠となる6件の研究は、すべてランダム化プラセボ対照クロスオーバー比較試験で実施されており、1本の報告書は二重盲検、2本の論文は非盲検、残り3本の論文は試験参加者に対する単盲検で行われていました。また、試験を行った場所はカナダやオーストラリアであったと述べています。これらの論文は10~19名の標準または過体重 {論文中では、体重の評価をボディマス指数 (Body Mass Index; BMI) で行っていました。カナダ保健省ではBMIが18.5-24.9 kg/m2の者が標準体重、25.0-29.9 kg/m2の者が過体重であるとしています4)。} であるが、健康な男女を試験参加者とし、各群の平均年齢は24~39歳でした。PGX®は、10~12時間の絶食を行った後に、1回の標準的な食事に振りかける、または混ぜて摂取させていたとしています。また、PGX®はクロスオーバー比較試験を用いて機能性を評価した論文や報告書が科学的根拠として利用されていますが、クロスオーバー比較試験では被験食品またはプラセボ食品の効果が持ち越されないようにウォッシュアウト期間を設け、効果を消失させる必要があります5)。PGX®の効果が消失するためのウォッシュアウト期間は、少なくとも1日と設定されていたと述べています。

PGX®は、前述のように標準的な食事と共に摂取させていましたが、食事はブドウ糖飲料、食パン、米飯、ヨーグルト、コーンフレーク、グラノーラ、茹でたポテト、フライドポテト、オートミール、ベーグルなどの炭水化物であったとしています。また、すべての論文において、プラセボ食品はPGX®を含まない食品としていましたが、2本の論文ではPGX®と同様の条件になるように、プラセボ食品として非粘性食物繊維であるイヌリンを添加して試験を実施していました。

主要アウトカムは、被験食品 (PGX®を添加した食品) またはプラセボ食品 (PGX®を添加していない食品) を摂取させた後、少なくとも2時間にわたって血糖値を測定し、曲線下面積 (iAUC) を算出することによって、食後の血糖値の反応について検討していました。iAUCは、ベースライン時の血糖値を排除し、被験食品またはプラセボ食品を摂取したことによる血糖値の変化のみを見ることができます。また、食後のインスリンの反応もiAUCを用いて測定することが出来ますが、PGX®の科学的根拠として採用した6本の論文の中でインスリンの反応もiAUCで見ているものがあったと述べています。

PGX®について検証したすべての研究において、被験食品を摂取した群では、iAUCが低下することが示されており、約8割の研究でiAUCに有意な低下が認められたと述べています。また、上記の研究の中で、研究としての質が高いもののみを集めても、PGX®の摂取によってiAUCが低下する結果は一貫していたと示されています。さらに、本ヘルスクレームの科学的根拠として使用された6本の論文と報告書のうち、5本は「Guidance Document for Preparing a Submission for Food Health Claims」2)を参照して試験を実施していたため、研究の質が担保されていたと述べています。

2.5~7.5 gのPGX®を食品と共に摂取させることで、食後の血糖値のiAUCが12~69%低下することが分かっています。また、食後血糖値が20%程度減少することは、生理学的に意味のある変化であると考えられています。この低下の重要性は、「Guideline Concerning the Safety and Physiological Effects of Novel Fibre Sources and Food Products Containing them」6)に記載されています。また、2.5~7.5 gのPGX®を食品と共に摂取することで、血糖値の低下が認められたことから、PGX®が炭水化物を含む食事を摂取させた後の血糖値のiAUCを統計学的かつ生理学的に有意に減少させる最小濃度は、5 gであると結論づけています。

炭水化物を含む食事と共にPGX®を摂取させ、食後の血糖値について検討した1本の報告書において、プラセボ群と比較してインスリンのiAUCが有意に低下することを報告していました。そのため、カナダ保健省健康製品食品局は、PGX®の摂取に伴って、食後の血糖値の低下は、インスリンの濃度上昇によって引き起こされるのではなく、グルコースの吸収低下による影響の可能性が高いと結論付けていました。

PGX®は、調理 (焼く、煮るなど) または冷凍などの過程が必要となる食品に添加し、ヒトに摂取させ、食後の血糖値の反応を見た試験はありません。そのため、PGX®は摂取する直前に添加 (振りかける、混ぜるなど) する食品と一緒に販売される場合、またはPGX®が消費の直前に液体が添加される乾燥食品と混ぜて販売される場合にのみ、このヘルスクレームを謳うことができるとしています。

ヘルスクレームの記載について

以下には、ヘルクレームの記載方法、表示方法などの例を記載しました。

  • ①PGX®が消費される直前に添加される (振りかける、混ぜる) 食品と一緒に販売される場合
    ● 1カップ (30 g) のシリアルと一緒にPGX®を5 gを摂取することで、炭水化物による食後の血糖値の上昇を抑制します。
  • ②PGX®を、食べる直前に液体を加える乾燥食品に混ぜて販売する場合
    ● シリアル1パック (30 g) には、炭水化物による食事の後の血糖値の上昇を抑えることが報告されているPGX®が5 g含まれています。

また、先ほどのヘルクレームの他に、「PGX®は、炭水化物を含む食事の後の血糖値の上昇を抑制します。」と記載できるとしています。また、この文章は、①②の2倍の大きさで記載することが出来るとしています。

表示するうえでの条件

PGX®に関する本ヘルスクレームを謳ううえで、以下の条件が全ての商品に適用されると述べていました。

  • A) 包装された食品、栄養補助食品、食事の代替品、または一般的な量の食品の1食分にPGX®を5 g以上含有していること。
  • B) 包装された食品、栄養補助食品、食事の代替品、または一般的な量の食品の1食分あたりの糖分が15 g未満であること。

また、上記のA)B)に加えて、PGX®を振りかける、または混ぜるための方法、水の添加方法について記載することが出来るとしています。

表示について

PGX®が「多糖類複合体 (グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム) 」という一般名を指すことが明確である場合にのみ、食品パッケージの前面 (または包装の他の場所) でPGX®に関する主張を行うことができるとしています。その場合、栄養成分表などにも記載する必要があります。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】

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