P値とは、統計学的有意性を評価するための指標として通常用いられています。機能性表示食品のガイドラインにも統計学的有意差が必要とあるので、ご存知の方は多いと思います。P値は多くの科学的な結論に用いられていますが、誤用と誤解がしばしば見過ごされています。

代表的な誤解として、有意差があれば効果があると判断してしまうこと、P値が小さいほど効果が大きいと認識してしまうことの2つが挙げられます。例えば、体脂肪率を減少させる機能性が期待される緑茶を8週間摂取する臨床試験を実施したとします。その結果として、摂取8週間後の体脂肪率において、有効成分を含まない食品群 (プラセボ群) と有効成分を含む食品群 (被験食品群) に有意差が確認され、その群間差 (被験食品−プラセボ群) が0.1%であった際、被験食品は体脂肪率を減少させる効果があったと報告されることがあります。しかし、実際に、8週間で体脂肪率を0.1%減少させる効果があったとして、その差に意味があるのでしょうか。その差に意味があるかどうかを評価するには、統計学的に差があるかどうかではなく、臨床的に意味のある差であるかどうかを評価する必要が生じます。つまり、P値は2つの母集団が統計学的に異なった母集団かどうかを評価するのみで、その効果の大きさや結果の重要性を示す値ではないのです。

このような誤解や誤用が見過ごされている中で、P値の適切な使用と解釈の原則に関する声明をアメリカ統計協会 (American Statistical Association, ASA) が2016年に発表しました。その声明には、以下に示した5つの原則が提示されています。

  • 1.P値はデータと特定の統計モデル (訳注: 仮説も統計モデルの要素の一つ) が矛盾する程度を示す指標の一つである。(P-values can indicate how incompatible the data are with a specified statistical model.)
  • 2.P値は、調べている仮説が正しい確率や、データが偶然のみでえられた確率を測るものではない。(P-values do not measure the probability that the studied hypothesis is true, or the probability that the data were produced by random chance alone.)
  • 3.化学的な結論や、ビジネス、政策における決定は、P値がある値 (訳注: 有意水準) を超えたかどうかのみに基づくべきではない。(Scientific conclusions and business or policy decisions should not be based only on whether a p-value passes a specific threshold.)
  • 4.適正な推測のためには、すべてを報告する透明性が必要である。(Proper inference requires full reporting and transparency.)
  • 5.P値や統計学的有意性は、効果の大きさや結果の重要性を意味しない。(A p-value, or statistical significance, does not measure the size of an effect or the importance of a result.)
  • 6.P値は、それだけでは統計モデルや仮説に関するエビデンスの、良い指標とはならない。(By itself, a p-value does not provide a good measure of evidence regarding a model or hypothesis.)

引用 (和文): 佐藤俊哉. 統計的有意性とP値に関するASA声明.日本計量生物学会. (URL: https://www.biometrics.gr.jp/news/all/ASA.pdf)

引用 (英文): Wasserstein RL, Lazar NA. Editorial: The ASA’s statement on p-values: Context, process, and purpose. The American Statistician 2016; 70: 129-133.

より良い臨床試験を実施していくためには、臨床試験に関する見過ごされてきた誤解や誤用を多くの関係者に発信し、理解を深め改善していくことが重要になっていくと思います。その第一歩として、P値の適正な取扱いについて、考えてみるのはいかがでしょうか。

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