シリーズ『おしえて論文作成』では、論文作成における留意点を紹介していきます。
教えて論文作成 Part 3-1では、パラグラフの構成における重要な情報の配置に着目し、論文作成のポイントをご紹介します。

目次

1.前回のおさらい

前回は「文の構造に気を付けようー語句の順番は大丈夫?ー」というテーマで、目的語や代名詞、否定語などの主語以外の配置場所についてお話しました。
そこでオルトメディコでは、皆様の技術や知見を広めていく活動の一つとして研究会やシンポジウムなどの開催をサポートする事業を立ち上げました。

★前回のコラムは、こちら★

目的語の配置については、動詞に続けて直接目的語を間接目的語の前に置くことが原則となっていますが、文章のまとまりを優先して間接目的語を動詞の近くに置き、文末に直接目的語を持ってくる場合もあります。代名詞は、それ自身が指し示す名詞よりも先に導入してはいけません。否定語は、英語では文脈を作る上で重要な役割を果たしていることが多いため、できるだけ文頭に配置し、修飾する動詞の前、助動詞の後に置きます。副詞の配置は、本動詞の直前、be動詞の直後などの基本原則が存在しますが、時間や場所などを修飾する副詞など例外も多いので注意しましょう。形容詞は、修飾する名詞の前、または関係代名詞をはさんで使用することが原則となっています。また、複数の名詞を並べることで、前の名詞がその後の名詞を修飾することができますが、ネイティブスピーカーが使用している言い回しなのか、事前に確認しておくのが望ましいです。

前回まで紹介してきた文の各要素の配置方法に共通する考え方は、文章のまとまりを重視し、重要な情報を先に出すことで各要素の関連性をはっきりさせることだと言えます。今回からは、文より大きな単位であるパラグラフの中での情報の置き方についてご紹介致します。

2.第1パラグラフに入れる情報

はじめに、第1パラグラフに入れる情報についてです。

パラグラフとは、日本語でいう段落のことであり、内容的に関連のある複数の文の集まりで、それによって1つの考えを表現するものです。

読者は論文を最初から順番に読んでいるとは限らないため、序論や考察などの各セクションの最初に論文の目的や結果を1~2文で要約することが効果的です。また要約に続けて、セクション全体の構成を示すという方法もあります。特に短い論文においては、そのセクションで伝えたい結果や仮説などの重要な情報を第1パラグラフで単刀直入に述べ、それに続いてその重要性を説明するというアプローチもよく使われます。つまり、第1パラグラフは、重要な情報を提示する場所になります。

ただし、ジャーナルによっては、こちらに示したようなアプローチが使われていない場合もありますので、ご自身が投稿されるジャーナルの掲載論文を確認し、どのような文章展開が好まれるのか調べておきましょう。

3.パラグラフの第1文の主語の選び方

続いて、パラグラフの第1文の主語についてお話します。第2回の動画でお話しましたように、主語は文の最初に登場しますので、強調したい要素を主語にするのが良いでしょう。文やパラグラフの最初は「トピックポジション」と呼ばれ、読者はここにトピックとなる情報が登場すると期待しています。また、読者の意識は文頭の大文字やピリオドの前後に集中する傾向があると言われていることからも、主語に強調したい要素を使うのは効果的だということがわかります。

<Point ~読者が意識する部分~>

  • ① トピックポジション (文やパラグラフの最初)
  • ② 文頭の大文字
  • ③ ピリオドの前後

強調したい要素を配置する

通常、トピックポジションに位置する、各パラグラフの第1文の主語には最も新しい情報が選ばれますが、前述の情報をトピックポジションに置くことで理解が促進されることもあります。したがって、トピックポジションには、伝えたい内容を最もよく表す要素を置くべきだと言えます。

4.新規の情報と既知の情報 (文中での配置)

トピックポジションにはその文やパラグラフのテーマとなる要素を置くべきだということはご理解いただけたかと思いますが、新規の情報と既知の情報をあわせて紹介する場合はどのようにしたらよいのでしょうか?

読者は文の最初と最後に注目する傾向がありますので、重要な情報は長い文の中央に置いてしまうと読んでもらえない可能性があります。そこで、接続詞を使って新規の情報と既知の情報を対比させるテクニックがよく見られます。こちらに3つの例文を示しました。

最初の例文では、最初に既知の情報が提示され、新規の情報をthoughの後に導入しています。2つ目の例文では、文頭にalthoughがあることから、文章の後半で新規の情報により既知の情報が修飾されることをただちに知ることができます。最後の例文では、前半の情報は読者がすでに知っていることを前提に、still (それでも) という言葉で新規の情報に焦点を当てています。

<Example ~接続詞を使った新旧の情報の対比~>

  • ① Though
    例: English is studied by many people, though this number …
  • ② Although
    例: Although English is studied by many people, this number …
  • ③ Still
    例: Although the importance of Chinese is …, 1.1 billion people still study English.

このように、1つの文の中で新規の情報と既知の情報をあわせて紹介する場合は、語順や接続詞を工夫し、注目して欲しい情報を重み付けすることが重要です。

5.新規の情報と既知の情報 (パラグラフ中での配置)

続いて、パラグラフの中で新規の情報と既知の情報をあわせて紹介する際の構成方法についてお話します。論文でよく見られるパラグラフの情報展開パターンを3つ示しました。

<Point ~よく見られる情報展開パターン~>

  • ① 既知の情報→新規の情報→問題提起
    ⇒序論 (研究に至るまでの経緯がわかる)
  • ② キーワード→新規の情報 (問題提起)→研究の目的と結果
    ⇒専門誌の要旨、序論 (読者がある程度の知識を持っていることが前提)
  • ③ 新規の情報のみ
    ⇒専門誌や学会の要旨 (直ちに読者の興味を引く)

1つ目は、既知の情報を最初に提示した後に新規の情報を紹介し、問題を提起するものです。2つ目は、トピックポジションでキーワードを提示した後、新規の情報を示して問題を提起し、研究の目的と結果を紹介するものです。3つ目は、新規の情報のみを提示したものです。1つ目のパターンは、今回発表する研究に至るまでの経緯が丁寧に説明されるため、序論に向いており、実際に多くの論文で使われているテクニックです。2つ目のパターンは、読者が研究の背景をある程度知っていることを前提とし、既知の情報を説明する必要はないと判断して作られた文章であるため、専門誌の要旨や序論に向いていると言えます。3つ目のパターンも2つ目のパターンと同様に、読者がある程度の知識を持っていることを前提としていますが、直ちに読者の興味を引くことに特化した内容であるため、専門誌や学会の要旨に向いていると言えます。

このように情報展開のパターンは様々ありますが、どのパターンを選ぶかを決める際に考慮すべき要因が2つあります。一つは、論文のどのセクションを書いているか、もう一つは、そのパラグラフで達成したいことは何かです。この2点を考え、パラグラフの内容や目的に適した情報展開パターンを選びましょう。

今回は、パラグラフの中での情報の置き方についてお話しました。
次回は、「Part 3 パラグラフの構成を考えよう」の後半としまして、トピックの展開とまとめ方についてお話しします。