1 概要

臨床試験のデザインや解析においては生物統計家の貢献が不可欠です。原則的な統計学的留意事項はプロトコルに記載しておくことが望ましいとされていますが、統計解析計画 (Statistical Analysis Plan; SAP) の記載に関してはICH E9やSPIRITといった標準的なプロトコル作成のガイドラインの間でも異なっている点が見られ、結果として試験ごとに統一されていないケースが多いというのが現状です。本稿では、2017年に公開された「Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials」の内容に基づき、臨床試験の統計関連業務に携わる全ての方に向けて統計解析報告書記述のヒントをまとめます。

2 試験の枠組み

本稿では、「Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials」の「枠組み (Framework)」についてまとめます。

2.1 臨床試験のための統計解析計画書の内容に関するガイドライン

「臨床試験のための統計解析計画書の内容に関するガイドライン」には試験の枠組みについて以下のような記述がなされています。

Framework

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Superiority, equivalence, or noninferiority hypothesis testing framework, including which comparisons
will be presented on this basis

枠組み

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優越性、同等性、あるいは非劣勢という、仮設検定の枠組み。どういった比較を示すかについても含める。

2.2 統計的仮説の設定に基づく臨床試験の枠組み

臨床試験を通して証明しようとする統計的仮説には、優越性仮説、非劣勢仮説、および同等性仮説があります。
優越性仮説を証明しようとする優越性試験は、被験食品の摂取が対照群よりも「臨床的に優れる」ことを示すことを目的として行われます。食品の臨床試験における有効性試験は多くがこれに該当します。
非劣性仮説を証明しようとする非劣性試験は、被験食品の摂取が対照群よりも「臨床的に劣らない」ことを示すことを目的として行われます。食品の臨床試験においては、対照群を設けた安全性試験などが該当します。例として、介入期間を通して発生した副作用や有害事象、特定のバイオマーカーの顕著な変動などのイベントの発生確率が対照群に対して有意に高くなければ「安全性に問題があることが確認されなかった」と結論づけることができます。
非劣性試験においては、非劣性マージン (非劣性許容限界とも) を事前に設定することが必須になります。実際には劣っている介入について、劣っているとする仮説を誤って棄却してしまうリスクがあるため、バイアスの無い効果の推定のため試験遂行上より多くの注意が必要となります。
同等性仮説を証明しようとする同等性試験は両者が「臨床上同等である」ことを示すことを目的として行われます。後発の製品が先発の製品と同等の有効性をもっていることを示す形が多く、効果が大きければ大きいほど望ましいというわけではない (効きすぎることも問題である)場合や同等の効能でより生産コストの低い製品を実用化したい場合など、食品よりも製薬の業界においてよく見られます。
同等性試験においては、同等範囲と呼ばれる区間を設定します。優越性試験や非劣勢試験では結論が「仮説が示される/示されない」の二択になるのに対し、各群(仮にA/Bとします)の間の差の信頼区間が、同等範囲の下限あるいは上限と重なっているかどうかによって「A/Bが優れる (同等範囲と全く重ならない)」「A/Bが優れない (同等範囲と部分的に重なる)」「同等である (信頼区間が完全に同等範囲に含まれる)」「未決定 (同等範囲が完全に信頼区間に含まれる)」と階層的な結論が導かれます。

3 記載例

記載例は以下の通りです。

本試験は、被験食品のプラセボ群に対する優越性を、摂取後の●●を主要アウトカムとして検証することを目的とする。先行研究を踏まえ、被験食品群とプラセボ群の●●の差を○○U/Lと想定し、摂取後の●●の群間差の両側95%信頼区間の下限が○○U/Lを上回ることをもって優越性を示すことができたと判断する。

4 参考文献

  • Gamble C, Krishan A, Stocken D; CONSORT Group. Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials. JAMA. 2017; 318 (23): 2337-2343. (PMID: 29260229)
  • 折笠秀樹, 訳. 臨床試験のための統計解析計画書の内容に関するガイドラインで示された「記載例」の紹介. 薬理と治療. 2018; 46 (4): 641-8.
  • 西川正子. 臨床試験のABC (I) 優越性試験と非劣勢試験とは. ドクターサロン. 2016; 60: 381-5. (160560-2-61.pdf (kyorin-pharm.co.jp)) (2021年9月17日アクセス可能)

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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