1 概要

ヒト臨床試験 (ヒト試験) を計画する際は、プロトコルを事前に作成する必要があります。特に機能性表示食品の届出を目指したヒト試験は、SPIRIT2013に基づく記述が推奨されています。しかし、プロトコルの作成は、医師をはじめとする多くの専門家の参画が必須であり、敷居が高いと感じる方も多いと思います。本稿は、プロトコルを作成するすべての方に向けてプロトコル作りのヒントをまとめます。

2 データ収集方法

本稿は、SPIRIT2013のチェックリストにある「データ収集方法(Data collection methods)」についてまとめます。

2.1 SPIRIT2013声明

SPIRIT2013声明には上記の項目について、それぞれ以下のような記述がなされています。

Data collection methods 18a
18b
Plans for assessment and collection of outcome, baseline, and other trial data, including any related processes to promote data quality (eg, duplicate measurements, training of assessors) and a description of study instruments (eg, questionnaires, laboratory tests) along with their reliability and validity, if known. Reference to where data collection forms can be found, if not in the protocol
Plans to promote participant retention and complete follow-up, including list of any outcome data to be collected for participants who discontinue or deviate from intervention protocols.
データ収集方法 18a
18b
アウトカム,ベースライン,その他の試験データを評価と収集するための以下を含むプラン。すなわち,データの質を向上させるための関連するすべてのプロセス (たとえば,2回の測定,評価者のトレーニング),またもし既知であるならば信頼性と妥当性を含めて、研究手段 (たとえば,質問票,臨床検査) の記載を含む。データ収集フォームがプロトコールに含まれない場合は,その参照先を記載。
参加者の脱落防止 (retention) を促進し,フォローアップを完了するためのプラン。介入プロトコールを中止またはそこから逸脱した参加者から収集すべき,すべてのアウトカムデータのリストを含む。

2.2 データの質を向上させるための関連プロセス

試験データの有効性と信頼性は、データ収集方法の質に依存しており、データの質に影響を及ぼす事柄として以下の点が挙げられます。

  • ・データの取得と記録のプロセスでは、試験担当者の訓練や標準的なパイロット・テスト済みの方法の使用などに注意が必要となります。これらの方法は、介入の性質によって妨げられない限り、すべての研究グループで同一でなければなりません。
  • ・アウトカムの評価方法の選択では、研究の実施と結果に影響を及ぼす可能性があります。また、特定の結果(有害性など)については、質問に答える人(参加者または治験責任医師)や質問の提示方法(個別の選択かオープンエンドか)によって、異なる回答が得られる可能性があります。
  • ・電子携帯端末やインターネットのウェブサイトの使用では、紙ベースのデータ収集方法と比較して、プロトコルの遵守、データの正確性、ユーザーの受容性、データ受領の適時性を向上させる可能性があります。

2.3 試験機器の信頼性と有効性

アンケートや検査機器などのデータ収集機器の信頼性、妥当性、応答性によっても、データの質は左右されます。評価者間の信頼性が低い機器は、統計的検出力を低下させ、意図した結果を正確に測定できません。また、未発表の測定尺度を使用することでバイアスがかかり、治療効果の大きさが誇張される可能性があります。このため、現地の調査担当者が標準的なプロセスを実施すべきであり、データの欠落や不完全なデータ、不正確さ、測定の過度の変動を検出し、その量を減らすことにより、品質の向上やバイアスの低減をもたらします。

2.4 試験データの収集計画および参考資料の参照先の記載

データの収集プロセス (データの質を高めるための人員、方法、機器、手段を含む) をプロトコルに明確に記述することで、実施が容易になり、プロトコル審査員が適切性を評価するのに役立ちます。さらに、データ収集方法は、結果に大きく影響するため、データ収集方法をプロトコルに含めることを強く推奨します。また、データ収集フォームがプロトコルに含まれていない場合は、データ収集用紙がどこで入手できるかの参照先を記載すべきです。もし、パイロット・テストやフォームの信頼性や有効性を評価した場合は、それらを記述する必要があります。

2.5 試験参加者の保持およびフォローアップ

大半の臨床試験では、参加者のある程度が研究中止となり、その結果としてデータが得られない場合が生じます。このことを非保持といい、通常、追跡期間が長くなるにつれて非保持は増加します。このため、データの欠損を防ぐために、どのように保持を促進するかを事前に計画することが望ましいです。
非保持は、介入プロトコルまたは、フォローアップ評価計画からの逸脱を意味しますが、参加者が試験に参加していないことを意味するのではありません。なぜならデータの欠損は、試験の妥当性や統計的検出力を大きく損なう可能性があり、ノンアドヒアランスでは、試験終了前に試験参加者からデータを収集することを中止すべき理由ではないからです。特にランダム化試験では、アドヒアランスに関係なく、すべての参加者をIntention-to-treat解析に含めることが広く推奨されています。

3 記載

データの収集方法の記載例は、以下の通りです。

3.1 データ収集方法

  • 国のガイドラインに従い、本研究では、救急救命センターから直接入院した患者、または他のサービスからICUに転入した患者のすべてにRASSおよびCAM-ICUを用いて、せん妄認識のデータ収集を行う。 (主要アウトカム)
  • 本研究では、患者の法的代理人および/または介護者から、人口統計学情報およびベースラインの機能情報の収集を行う。また認知機能の状態は、IQCODE質問票を用いてデータの収集を行う。 (副次的アウトカム)

3.2 品質管理

  • ●●からのデータは、一括で安全に送信され、●●と同様の方法で品質管理される。また、適切な編集チェックは、キーエントリー (データベースレベル) で実施される。
  • 病理委員会の委員長は、●●の診断を確定するための基準が合意された後、評価のための標本サンプルを、すべての研究病理医に回覧する。

3.3 参加者の保持・離脱

  • ●●が登録またはランダム化された後、研究施設は試験期間中、●●を追跡するためのあらゆる合理的な努力をする。
  • 参加者は理由を問わず、いつでも本試験から離脱することができる。また、治験責任医師は、協議の上、参加者の安全を守るため、もしくは従うことができない場合にも、参加者を離脱させることができる。

4 参考文献

  • Chan AW, Tetzlaff JM, Altman DG, Laupacis A, Gøtzsche PC, Krleža-Jerić K, Hróbjartsson A, Mann H, Dickersin K, Berlin JA, Doré CJ, Parulekar WR, Summerskill WS, Groves T, Schulz KF, Sox HC, Rockhold FW, Rennie D, Moher D. SPIRIT 2013 statement: defining standard protocol items for clinical trials. Ann Intern Med. 2013;158 (3): 200-7. (PMID: 23295957)
  •  Chan AW, Tetzlaff JM, Gøtzsche PC, Altman DG, Mann H, Berlin JA, Dickersin K, Hróbjartsson A, Schulz KF, Parulekar WR, Krleza-Jeric K, Laupacis A, Moher D. SPIRIT 2013 explanation and elaboration: guidance for protocols of clinical trials. BMJ. 2013; 346: e7586. (PMID: 23303884)

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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