1 概要

ヒト臨床試験 (ヒト試験) を計画する際は、プロトコルを事前に作成する必要があります。特に機能性表示食品の届出を目指したヒト試験は、SPIRIT2013 に基づく記述が推奨されています。しかし、プロトコル
の作成は、医師をはじめとする多くの専門家の参画が必須であり、敷居が高いと感じる方も多いと思います。
本稿は、プロトコルを作成するすべての方に向けてプロトコル作りのヒントをまとめます。

2 割振り

本稿は、SPIRIT2013 のチェックリストにある「割振り (Allocation)」の下位項目である「順序の作成 (Sequence generation)」、「割振りの隠蔵手法 (Allocation concealment mechanism)」、「実施 (Implementation)」についてまとめます。

2.1 SPIRIT2013声明

SPIRIT2013声明には上記の項目について、それぞれ以下のような記述がなされています。

Sequence generation Method of generating the allocation sequence (eg, computer-generated random numbers), and list of any factors for stratification. To reduce predictability of a random sequence, details of any planned restriction (eg, blocking) should be provided in a separate document that is unavailable to those who enrol participants or assign interventions
順序の作成 割振り順序の作成方法 (たとえばコンビューターで発生させた乱数) と層別化のためのすべての因子のリスト。ランダムな順序の予測可能性を減じるために, 計画されたすべての制限 (たとえばブロック化) の詳細は,参加者を組入れたり介入を割振りする者に見られないように, 別の文書に記載されるべきである。
Allocation
concealment
mechanism
Mechanism of implementing the allocation sequence (eg, central telephone; sequentially numbered, opaque, sealed envelopes), describing any steps to conceal the sequence until interventions are assigned
割振りの隠蔵手法 割振り順序を実施する手法。介入が割付け (assign) されるまでの期間,順序を隠蔵 (conceal) するためのすべてのステップを記載する (たとえば, 中央電話方式,順に番号づけされ不透明で密封された封筒)。
Implementation Who will generate the allocation sequence, who will enrol participants, and who will assign participants to interventions
実施 誰が割振り順序を作成するか, 誰が参加者を組入れるか, 誰が参加者を介入に割付けるか。

2.2 順序の作成 (Sequence generation)

試験参加者は、どの群に割り付けられるかという確率を予測できないような方法でランダム化がなされることが望ましいとされています。ランダム化には、割付時、特定の群に特定の傾向を持ったサンプルが集中することで生じてしまう選択バイアスを低減させる、割付後の盲検化を保つ、背景因子を均質化することで介入が原因で生じた差の有無の検出を確率論に基づいて行うことができるようになるといった意義があります。
実際の臨床試験におけるランダム化の手法は静的ランダム化と動的ランダム化に大別されます。
静的ランダム化は、乱数表や計算機によって生成した乱数に従って割付けていく完全無作為化法、予め定めた適当な長さのブロックをランダムに選択することで割付けていく置換ブロック法、層別因子の偏りを排除するため層ごとにランダム化を行う層別無作為化法などがオーソドックスな手法です。事前に定めた計画によっては各群に割り付けられる試験参加者数や試験参加者の層別因子に偏りが生じる可能性があるため、割付比や因子とする変数を予め設定しておくことが望ましいです。
動的ランダム化は、静的ランダム化に対して層別因子ごとに症例数を均質化するよう修正を加えたモデルであり、それまでに割り付けられた症例が予後因子の群間差が小さくなるよう逐次的かつ適応的に割振りを決定していく最小化法が最もオーソドックスな手法です。最小化法は、群間差がより小さくなる群に必ず割り付ける「決定論的最小化法」、より小さくなる群に割り付けられる確率が高くなるよう調節しつつランダムに割り付ける「非決定論的最小化法」に更に分類されます。決定論的最小化法は割付の予測不能性が低いこと、ランダムな決定により未知の予後因子まで均質化できると期待できることから非決定論的最小化法の方がより好ましいとされています。

2.3 割振りの隠蔵手法 (Allocation concealment mechanism)

割付け時点まで順序を隠蔵するため、試験に関わるそれぞれの立場から留意すべきことがあります。
主催者: 試験食品に識別番号を割り振って受託臨床試験機関に提供し、試験終了後、割付表が送付されるまで厳重に保管する
受託臨床試験機関: 主催者から提供された試験食品の識別不能性を確認する

2.4 実施 (Implementation)

プロトコルの作成にあたり「役割と責任」の項で指名された割付責任者が、事前に定めた順序に従って割付を行い、試験が完了し統計解析のためのデータ及び統計解析手法が固定されるまで割付表とエマージェンシーキーを保管します。割付責任者は「主宰者及び受託臨床試験機関、倫理委員会などからの利益の享受は受けない」ことが定められています。

3 記載例

アウトカムの記載例は以下の通りです。

3.1 順序の作成

  • 被験者は、割付計画に基づいて、地域及びベースライン時点での●● (測定項目名) の実測値で層別化され、コンピューター上で生成された変数に従い対照群または介入群のいずれかに1:1の比でランダムに割り付けられる。ブロックの大きさは隠蔵し、非公開とする

3.2 割振りの隠蔵手法

  • 被験者は、●● (オンラインサービス名) を用いてランダム化される。当該サービスはベースライン時点の測定値が完全に揃い、被験者の組み入れが完了するまでランダム化コードを公開しないことから割振りの隠蔵がなされているものとみなす。

3.3 実施

  • 試験参加に同意し、かつ組み入れ基準を満たした全ての被験者がランダム化される。ランダム化は、組み入れや内科的問診に責任を持つ試験実施機関のスタッフの依頼によって行われる。
  • 試験実施機関は、研究結果の評価に携わらない割付責任者に対してランダム化変数を記載した解答フォームを送付する。このランダム化変数は、印字したものを厳封したものを有効とする。割付責任者はこれを開封し、各被験者を適宜割り振る。組み入れや症状の評価に責任を持つスタッフは、群への割振りに関する情報を得てはならない。
  • 割付順序は、研究機関と服薬遵守で層別化し、置換ブロック法を用いて生成する。ブロックサイズはエンドポイントにおける主要アウトカムの解析が完了するまで隠蔵する。データバンクが公開されている間は研究期間を通してデータマネジメント担当者や統計解析担当者に対してランダム化の内容を隠蔵することを徹底する。ランダム化リストは試験期間中試験実施機関が保管する。従ってランダム化に際しては試験に関わる主要な研究者の影響を受けない。

4 参考文献

  • Chan AW, Tetzlaff JM, Altman DG, Laupacis A, Gøtzsche PC, Krleža-Jerić K, Hróbjartsson A, Mann H, Dickersin K, Berlin JA, Doré CJ, Parulekar WR, Summerskill WS, Groves T, Schulz KF, Sox HC, Rockhold FW, Rennie D, Moher D. SPIRIT 2013 statement: defining standard protocol items for clinical trials. Ann Intern Med. 2013;158 (3): 200-7. (PMID: 23295957)
  • Chan AW, Tetzlaff JM, Gøtzsche PC, Altman DG, Mann H, Berlin JA, Dickersin K, Hróbjartsson A, Schulz KF, Parulekar WR, Krleza-Jeric K, Laupacis A, Moher D. SPIRIT 2013 explanation and elaboration: guidance for protocols of clinical trials. BMJ. 2013; 346: e7586. (PMID: 23303884)
  • 丹後 俊郎「無作為化比較試験―デザインと統計解析 (医学統計学シリーズ)」朝倉書店

ヒト臨床試験 (ヒト試験) で得られる結果は、様々な誤差を含んでいます。この誤差を小さくすることで介入効果を増大させることができます。オルトメディコは、多分野の専門家を有するため、様々なアプローチにより誤差を最小化する試験運営が可能です。引き続き、皆様にご満足いただけるような高品質なヒト試験を提供させていただきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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