前回の届出Newsに引き続き、今回もアメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administration; FDA) が発行するガイダンスについてご紹介します。今回は、「食事中の脂質と癌」についてお伝えします。

●FDAガイダンス

~食事中の脂質と癌~1)

a) 脂質と癌の関係について

癌とは、100以上の異なる病気の集合体であり、それぞれが制御されない異常な細胞の増殖と拡散に起因するという特徴があります。癌の発症には様々な原因と過程が存在します。癌の発症リスクは、遺伝的な危険因子と環境的な危険因子があります。具体的には、特定の種類の癌の家族歴、喫煙、飲酒、過体重や肥満、紫外線や放射線、癌の原因となる化学物質への暴露、食生活などがあると述べています。
食事の中の脂質摂取量といくつかの癌のリスクとの間には、強い正の相関関係が認められています。一般に公開されている科学的証拠を総合すると、専門家の間では、脂質の多い食事は、癌リスクの増加と関連しているという科学的な合意が得られています。これまでの研究では、決定的な結果が得られているわけではありませんが、特定の種類の脂質ではなく、脂質の総量が癌の発症リスクと正の関係にあることが示されています。しかし、脂質が癌に影響を与えるメカニズムはまだ確立されていません。
癌に対する脂質の影響が部位特異的なものであるかの評価は、多くの研究の課題となっています。脂質の摂取と特定の癌発症部位との関連性については、ヒトと動物のどちらの研究も一貫した結果は得られていないと述べられています。
脂質摂取量と癌の発症リスクとの関連は、エネルギーの摂取量とは独立して関連しているのか、あるいは、脂質と癌リスクとの関連は、通常、高脂肪摂取に伴う高エネルギーの摂取の結果であるのか、という議論もされていました。しかし、FDAでは、動物およびヒトの両方の研究から得られた結果により、エネルギーの摂取量とは無関係に脂質摂取量のみが癌の発症リスクに関連すると結論づけています。

b) 脂質摂取量と癌発症リスクとの関係の意義

アメリカでは、癌は死亡原因の第1位になっています。直接的な医療費、罹患や死亡など、癌による経済的損失は全体として非常に高いとされています。
米国の食生活は高脂肪、高エネルギー摂取の傾向にあります。米国の平均的な食生活で摂取する総熱量の36〜37%が脂質であると言われています。アメリカ連邦政府やその他の国の医療専門機関が発表している現在の食事ガイドラインでは、脂質を総熱量の30%以下に抑えることが推奨されています。脂質の摂取量を減らすためには、野菜、果物、穀物製品 (特に全粒穀物製品) を多く含む食事を選び、肉、魚、鶏肉は赤身のものを選び、高脂肪の乳製品を低脂肪のものに代え、油脂類は控えめに使うべきであるとしています。

c) 脂質摂取量と癌発症リスクとの関係を謳ったヘルスクレームの要件

商品を販売する際は、連邦規則集21巻 §101.142)に定められた要件 (機能性関与成分を含む食品成分の表示の方法、機能性関与成分の適格性および有効性・安全性の表示方法等) を満たすことが求められています。

また、食品のラベルまたは表示については、以下のような内容を踏まえて、記載することが必要であると述べています。

  • ①ヘルスクレームでは、低脂肪の食事がいくつかの癌のリスクを低減する「可能性がある」または「かもしれない」としていること。
  • ②ヘルスクレームでは、疾患を特定する際に、「いくつかの種類の癌」または「いくつかの癌」の用語を使用していること。
  • ③栄養素を特定する際に、「脂質」または「脂肪」という用語を使用していること。
  • ④ヘルスクレームでは、癌の発症リスクに関連する可能性のある脂質または脂肪酸の種類を特定していないこと。
  • ⑤ヘルスクレームの謳い文句では、脂肪の少ない食事によって、癌の発症リスクがどの程度減少するかを説明していないこと。
  • ⑥脂質の過剰摂取だけでなく、癌の発症は多くの要因に左右されることが表示されていること。

本ヘルスクレームを謳ううえで、商品を販売する際は、連邦規則集21巻§101.623)に定められた「低脂肪」食品に関する要件を満たすことが求められています。「低脂肪」食品とは、対象となる食品の通常摂取量が30 g以上である時に、脂肪含有量が0.5 g以上3 g以下の時を指すと述べられています。ただし、魚およびジビエなどの狩猟肉は、連邦規則集21巻§101.62の「無脂肪」の要件 (通常摂取量の脂肪含有量が0.5 g未満) を満たすとしています。

d) 脂質摂取量と癌発症リスクとの関係を謳ったヘルスクレームを謳う際の任意の情報記載

ヘルスクレームを記載する際は、特定の種類の癌の家族歴、喫煙、飲酒、過体重及び肥満、紫外線や放射線、癌の原因となる化学物質への暴露、および食生活の要因等、癌発症に寄与する危険因子を特定することできるとしています。

本項 a)および b)の情報のうち、食事中の脂質と癌との関係およびその重要性をまとめたものを含めて、ヘルスクレームに記載することが出来ます。

ヘルスクレームは、農務省 (U.S. Department of Agriculture; USDA) および保健福祉省 (Department of Health and Human Services; HHS) が発行する「Dietary Guidelines for Americans」に準拠していることが求められています。

ヘルスクレームは、アメリカ国内の癌患者数に関する情報を含めて記載することが出来るとしていますが、この情報の出所を明らかにされなければならず、USDA及びHHSが発行する「Dietary Guidelines for Americans」、国立衛生統計センター (National Center for Health Statistics; NCHS)、国立衛生研究所 (National Institutes of Health; NIH) からの最新の情報でなければならないとしています。

最後に、本ヘルスクレームを謳った食品のラベルや表示の例がまとめられていました。

  • ・癌の発生は多くの要因に左右される。脂質の少ない食事は、いくつかの癌のリスクを低減する可能性がある。
  • ・脂肪分の少ない健康的な食事は、いくつかの種類の癌のリスクを低減させる可能性がある。癌の発症は、家族歴、喫煙、食事内容など、多くの要因と関連している。

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【参考文献】
  • 1) Code of Federal Regulations Title 21 §101.73 Health claims: dietary lipids and cancer [Internet]. [cited 2021 Apr 22]. Available from: https://www.ecfr.gov/cgi-bin/retrieveECFR?gp=1&SID=4bf49f997b04dcacdfbd637db9aa5839&ty=HTML&h=L&mc=true&n=pt21.2.101&r=PART#se21.2.101_173
  • 2) Code of Federal Regulations Title 21 §101.14 Health claims: general requirements [Internet]. [cited 2021 Apr 22]. Available from: https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=c7e427855f12554dbc292b4c8a7545a0&mc=true&node=pt21.2.101&rgn=div5#se21.2.101_114
  • 3) Code of Federal Regulations Title 21 §101.62 Nutrient content claims for fat, fatty acid, and cholesterol content of foods [Internet]. [cited 2021 Apr 22]. Available from: https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=c7e427855f12554dbc292b4c8a7545a0&mc=true&node=pt21.2.101&rgn=div5#se21.2.101_162

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