前回に引き続き、欧州食品安全機関 (EFSA) の発行するガイダンスについてご紹介します。今回は『心血管に関する機能性評価』について、アウトカム設定や科学的根拠の説明の際に役立つ情報をお伝えします。また、今回は本ガイダンスの心血管に関するヘルスクレームの血管機能系の評価についてまとめました。本ガイダンスの血液マーカー系についてのメルマガもまとめていますので、是非ご覧ください。

●EFSAガイダンス

~心血管に関するヘルスクレーム~1)

心血管の健康について

心血管のヘルクレームは、効果が非特異的であり、身体の様々な部位に及びます。しかし、科学的根拠を評価するための十分な定義が定められておらず、特定の評価を実施しない限り、ヨーロッパで発売される健康食品のヘルスクレームは、一般的に欧州連合が定めた食品の強調表示規則 (Regulation (EC) No 1924/2006) に準拠しないと述べています。本ヘルスクレームの血管機能系における、より具体的な表示とその評価方法などを以下にまとめました。

①正常な心機能の維持に関して

エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、冠動脈疾患 (Coronary Heart Disease; CHD) の発症率を低減させることが分かっているため、ヒトにおいて有益であるとしています。

✔注意点
これら成分の科学的根拠の評価は、CHDのリスクを低減させるとするヒトにおける観察研究や、心血管系の投薬治療を実施している患者のCHDのリスク低減を示したとするヒト試験の結果を用いていたと述べています。
②正常な (動脈) 血圧の維持に関して

高血圧は様々な疾患 (脳卒中、心疾患、腎臓病など) への罹患リスクを上昇させることが分かっています2)。そのため、血圧を正常範囲で維持することは、ヒトにおいて有益であると述べられています。

✔アウトカム
収縮期血圧 (Systolic Blood Pressure; SBP)、拡張期血圧 (Diastolic Blood Pressure; DBP) など
✔介入期間

長期間 (8週間など)

✔対象者
健常者から高血圧患者
✔注意点
科学的根拠を評価する際は、SBPの低下 (各ポイントにおけるSBP、24時間後のSBPなど) またはDBPの低下 (各ポイントにおけるDBP、24時間後のDBPなど) をヒトで試験することが求められています。また。試験デザインとしては、適切な被験食品または機能性関与成分の摂取前と摂取後の比較、または基準食品を摂取させ被験食品などで得られたアウトカムの変化を比較することが望まれています。
介入による動脈血圧の変化は、介入開始から4週間程度で効果が見られると言われていますが、より長期的に8週間程度で継続的に介入を実施し、効果の持続性に関する評価を行うことが望ましいとされています。
動脈血圧を測定する際は、個人内変動を考慮し、統一された条件とプロトコルに従って、学術的にコンセンサスの得られた方法を用いて行うことが望ましいとされています3)。また、電子機器を用いた家庭血圧は、標準化がされていないため、標準化された診療室血圧3)の結果を基にアウトカムの測定をすることが望まれています。
24時間の平均SBP及びDBPを測定したい場合は、24時間自由行動下血圧測定 (Ambulatory Blood Pressure Monitoring; ABPM)4)を用いて評価することが述べられています。
対象者については、生活習慣 (食事療法など) のみで治療を受けている高血圧患者を対象とした試験結果を、これらのヘルクレームの科学的根拠として使用することができるとしています。また、血圧降下薬 (アンジオテンシン変換酵素阻害剤、β-アドレナリン受容体遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬など) による薬物治療を受けている高血圧患者を対象とする場合は、被験食品または機能性関与成分との間に相互作用が無いかを検証することも必要です。
③動脈の弾性特性の維持に関して

血管の弾性特性は、動脈部位によって変化し、弾性の高い (コンプライアンスの高い) 近位動脈 (大動脈とそこから枝分かれする動脈など) は、主に心臓からの断続的なポンプ作用によって生じる血流変動を減衰させることに寄与し、同様に弾性の高い遠位動脈は血液の流れの調整に関与することが分かっています。そのため、血管のコンプライアンスの低下は、血流の速度を低下させることが分かっています。また、コンプライアンスの低下は、加齢、高血圧、糖尿病への罹患で見られる現象であるため、コンプライアンスの維持は、ヒトにおいて有益であると述べられています。

✔アウトカム
頸動脈-大腿動脈の波伝播速度(Pulse Wave Velocity; PWV)5)など
✔介入期間
長期間 (8週間など)
✔注意点
動脈の弾性の維持に関する評価するための試験デザインは、4~8週間程度で被験食品または機能性関与成分を介入させるヒト試験で実施することが求められています。
頸動脈-大腿動脈のPWVは、動脈硬化の標準的な測定方法であるとしています。
非侵襲的な方法として反射波測定があり、中心血圧、SBPおよび増大係数 (Augmentation Index; AIx) を用いて実施する方法があります6)。しかし、反射波測定とPWVは動脈硬化の指標として互換的に使用することはできないとしています。それは、PWVは動脈硬化を直接的に評価しているのに対して、反射波測定は動脈硬化を間接的に評価した代替試験に過ぎないためと述べています。
動脈硬化の測定による動脈の弾性特性の維持に関するヘルクレームを謳った食品の中で、評価法の論理が不十分であったことや、一般的な動脈硬化の評価方法を用いていなかったため {ABPMから算出され、血圧の変動から動脈硬化を評価の指標である Ambulatory Arterial Stiffness Index (AASI)7)を測定}、誇大した食品であると評価されたものもあると述べられています。
④血管内皮機能の改善に関して

血管内皮には血管作動性物質が存在し、血管運動、平滑筋の増加、血栓症、炎症などの関与することが分かっているため、血管内皮を維持することは、ヒトにおいて有益であると述べられています。

✔アウトカム

血流依存性血管拡張反応 (Endothelium-Dependent-Fow-Mediated Dilation; ED-FMD)8)測定など

✔介入期間

長期間 (4週間など)

✔注意点

いくつかの血管内皮機能についての評価として、FMDの測定することで行っているものがあります。血管は、内腔に対する物理的・化学的刺激に反応する能力を有しており、局所における環境変化に応じて緊張を自己調整し、血流や分布を調整することができることが分かっており、多くの血管では血液量などに起因する剪断力の反応 (シアストレス6,9)) して変化します。そして、この現象がFMDであり、FMDを測定することは、学術的にコンセンサスの得られた方法であるとしています。
FMDの主要な血管作動性物質として、内皮由来の一酸化窒素 (NO)、一酸化窒素合成酵素 (NOS) 阻害剤などが存在し、これらの成分は身体の様々な血管のFMDを減少させることが分かっています。また、内皮由来のプロスタノイドや内皮由来過分極因子も、シアストレスに対する動脈径の変化を仲介する補佐的な機構として関与しており、シアストレスに対する血管の適切な反応を確保するために、システムにはある程度の冗長性があると考えられています。そのため、内皮依存性の血管拡張の測定は、身体の細胞や組織への適切な血流の維持に寄与すると述べています。
アウトカムの試験条件として、NOを発生させる薬剤であるNOドナーを投与し、上腕動脈のFMDの結果を被験食品と基準食品で比較して評価するなどもあると述べています8)
ED-FMDを測定する際は、被験食品または基準食品を一定期間介入させ、空腹時でのED-FMDを測定するか、被験食品また機能性関与成分を介入させた直後のED-FMDの変化を測定することで、科学的根拠を評価することが出来るとしています。
血漿中のNOの状態を反映するマーカー (還元的気相化学発光法による亜硝酸/ニトロシル種の測定など) は、被験食品または機能性関与成分による生体内の作用機序の補足的な評価として用いることができるとしています。
正常な内皮依存性血管拡張反応の維持に関するヘルスクレームは謳った食品の機能性を示す成分として、本ガイダンスにおいてココアは適した有効性を示す食品であるとしています。

⑤血小板凝集抑制に関して

健常者では、血小板の活性化10)と血液凝固性の亢進はあまり見られませんが、心臓病のリスクがあるヒトによく見られるため、過剰な血小板の凝集を抑制することは、ヒトにおいて有益であると述べています。

✔アウトカム
透過光血小板凝集測定11)など
✔介入期間
長期間 (4週間など)
✔対象者
血小板が活性化させている者
✔注意点
血小板が活性化されている者に被験食品または機能性関与成分を継続的に介入し、血小板の凝集を測定する透過光血小板凝集測定を行えば、科学的根拠の評価を行うことが出来るとしています。
血小板が活性化されることで産生される酵素であるトロンボキサンA2や血漿可溶性P-セレクチンなどの変化は、血小板凝集を評価するための確立されたマーカーではないため、これらのマーカーの結果は科学的根拠の補助的な因子としてのみ利用することが出来ます。
正常な血小板凝集の維持に関するヘルスクレームを謳った食品の機能性を示す成分として、本ガイダンスにおいてトマトエキスは適した有効性を示す食品であるとしています。
⑥静脈血流の維持に関して

健康な静脈には二尖弁があり、下肢から心臓への一方通行の流れを補助しています。静脈系の弁が機能しなくなると、血液が逆流することがあります (静脈逆流)。静脈逆流は、血液の還流障害と静脈圧の上昇を特徴とする病的状態であり、静脈のうっ滞、最終的には微小血管症につながる可能性があります。そのため、正常な静脈血流の維持は、ヒトにおいて有益であると述べられています。

✔アウトカム
動的超音波測定 (Duplex Doppler法) など
✔介入期間
長期間 (8週間など)
✔注意点
被験食品または機能性関与成分をヒトに介入し、動的超音波測定することで、静脈血流の維持に関する科学的根拠の評価を行うことが出来るとしていますが、足の静脈である大伏在静脈径および膝窩静脈径の評価には、用いることが出来ないとしています。
正常な静脈血流の維持を謳ったヘルスクレームの科学的根拠を評価は、健常者と慢性静脈不全症の者でサブグループ解析を実施しても良いとしていますが、慢性静脈不全症の者を健常者と同じ領域として考えることが出来る理由を説明することが求められています。
静脈瘤やその他慢性静脈疾患の者を対象とし、疾患の症状の治療に関連する研究は、健常者の静脈機能に関する評価の科学的根拠として用いることはできないとしています。
正常な静脈血流の維持に関するヘルクレームを謳った食品の中で、被験食品の研究が限定的であったこと、研究が静脈血流を測定していないことを理由に、誇大した食品であると述べられているものもあります。また、正常な生理的静脈緊張の維持と正常な静脈-毛細血管透過性の維持を謳った食品の中で、「静脈緊張」の直接的な測定ではない下肢の重さ、灼熱感、痙攣、蟻走感の軽減の測定や、「静脈毛細血管透過性」の直接的な測定ではない足、足首、脚の体積の変化の測定をした食品は、本ヘルスクレームの評価として適切な方法で実施されてものでは無いと述べられています。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】
  • 1) Turck D, Bresson J, Burlingame B, et al. Guidance for the scientific requirements for health claims related to antioxidants, oxidative damage and cardiovascular health. EFSA J. 2018;16(1):1–21.
  • 2) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン 2019. ライフサイエンス出版. 2019.
  • 3) Mancia G, Fagard R, Narkiewicz K, et al. 2013 ESH/ESC Guidelines for the management of arterial hypertension. Eur Heart J. 2013;34(28):2159–219.
  • 4) JCS Joint Working Group. Guidelines for the Clinical Use of 24 Hour Ambulatory Blood Pressure Monitoring (ABPM) (JCS 2010) – Digest Version -. Circ J. 2012;76(2):508–19.
  • 5) Millasseau SC, Stewart AD, Patel SJ, et al. Evaluation of Carotid-Femoral Pulse Wave Velocity. Hypertension. 2005;45(2):222–6.
  • 6) 湯川泰弘, 藤澤佳代子, 金範埈ら. シェアストレス負荷条件下におけるin vitro三次元微小血管内の 血管内皮細胞の挙動観察. 生産研究. 2015;67(3):251–3.
  • 7) 美佐子末永 (福山), 甲斐田裕介, 中野薫ら. 血液透析患者における ambulatory arterial stiffness index (AASI)と頸動脈末梢血管抵抗との関連についての検討. 日透析医学会誌. 2017;50(7):473–6.
  • 8) Thijssen DHJ, Black MA, Pyke KE, et al. Assessment of flow-mediated dilation in humans: a methodological and physiological guideline. Am J Physiol Circ Physiol. 2011;300(1):H2–12.
  • 9) 安藤譲二, 神谷瞭. 血流のshear stressと内皮細胞の反応. BME. 1991;5(2):8–19.
  • 10) 矢冨裕. 活性化血小板に由来する生理活性物質:臨床への展望. 日内会誌. 2008;497(1):168–75.
  • 11) Cattaneo M, Cerletti C, Harrison P, et al. Recommendations for the standardization of light transmission aggregometry: a consensus of the working party from the platelet physiology subcommittee of SSC/ISTH. J Thromb Haemost. 2013;11(6):1183–9.

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