前々回に引き続き、欧州食品安全機関 (EFSA)の発行するガイダンスについてご紹介します。今回は『心血管に関する機能性評価』について、アウトカム設定や科学的根拠の説明の際に役立つ情報をお伝えします。また、今回は本ガイダンスの心血管に関するヘルスクレームの血液マーカー系の評価と、心血管の健康についてまとめました。

●EFSAガイダンス

~心血管に関するヘルスクレーム~1)

心血管の健康について

心血管のヘルクレームは、効果が非特異的であり、身体の様々な部位に及びます。しかし、科学的根拠を評価するための十分な定義が定められておらず、特定の評価を実施しない限り、ヨーロッパで発売される健康食品のヘルスクレームは、一般的に欧州連合が定めた食品の強調表示規則(Regulation (EC) No 1924/2006) に準拠しないと述べています。本ヘルスクレームの血液マーカー系における、より具体的な表示とその評価方法などを以下にまとめました。

①血中脂質プロファイルの変化に関して

血中低密度リポタンパク質濃度 (Low-Density Lipoprotein Cholesterol; LDL-C)の低下、トリグリセリド (Triglycerides; TG) 濃度の低下、血中高密度リポタンパク質濃度 (High-Density Lipoprotein Cholesterol; HDLC)の濃度の上昇は、全てのヒトにおいて有益であるとしています。また、血中脂質プロファイルが正常範囲内であることも、ヒトにおいて有益であるとしています。

✔アウトカム
脂質検査、血中脂質プロファイル2)など
✔介入期間
長期間 (8週間など)
✔対象者
健常者から高コレステロール血症および高トリグリセリド血症患者
✔注意点

アウトカムは、総コレステロールとLDL-C、LDLCとHDL-Cなどの関連があるとされるものを組み合わせて、科学的根拠を評価することが望まれています。しかし、これらのアウトカムの設定は、どちらのアウトカムを主要とするかは、試験目的 (探索的など)、試験グループ、被験食品または機能性関与成分が示す作用機序の情報を用いて実施することが述べられています。また、血中脂質プロファイルをアウトカムとし、被験食品または機能性関与成分の機能性を評価する際も、血中脂質の各項目を複合的に評価することが求められています。

本ヘルスクレームの科学的根拠の評価を行うための試験デザインは、被験食品の介入前と介入後のアウトカム変化量、またはプラセボを設定し、被験食品群とのアウトカムを比較することが求められています。

アウトカム (LDL-C、HDL-Cなど) を測定する際は、学術的にコンセンサスの得られた方法を用いて、統一された条件およびプロトコルに従って、実施される必要があるとしています。特に、採血は個人差でなく被験食品の影響によって変動するように、採血条件が介入期間内で、十分に統一されている必要があるとしています。また、血中脂質プロファイリングは、採血条件が十分に統一されている時にのみ、得られた結果を科学的根拠として用いることが出来るとしています。

介入による血中脂質の変化は、介入開始から4週間程度で効果が見られると言われていますが、より長期的に8週間程度で継続的に介入を実施し、効果の持続性に関する評価を行うことが望ましいとされています。

LDL-C濃度の上昇に寄与する食品成分が含まれていない (含有量が少ない) ことで、LDL-C濃度低下に寄与するとするヘルスクレームを謳いたいときは、被験食品のLDL-C濃度の上昇に関連する成分 {飽和脂肪酸 (Saturated Fatty Acids;SFA) など} の含有量を減らし、LDL-C濃度の上昇に寄与しないとされる成分 (炭水化物など) と比較し、評価することが述べられています。また、LDL-C濃度の上昇に寄与する成分に対して、上昇に寄与しない成分で代替を行う場合は、代替成分がLDL-C濃度の増加に寄与しないことなどを(SFAの代替成分として用いた不飽和脂肪酸によるLDL-C濃度の減少など) 評価ことが求められています。

対象者については、生活習慣 (食事療法など)のみで治療を受けている高コレステロール血症および高トリグリセリド血症の患者を対象とした試験結果を、これらのヘルクレームの科学的根拠として使用することができるとしています。また、コレステロール低下薬 (スタチン系薬剤など) による薬物治療を受けている高コレステロール血症の対象者や、中性脂肪低下薬 (フィブラート系薬剤など) による治療を受けている高トリグリセリド血症の対象者の場合、被験食品または機能性関与成分との間に相互作用が無いかを検証することも必要です。

②食後の血中中性脂肪濃度の低減に関して

脂肪を含む食事などは、健常者においても血中中性脂肪濃度の上昇に寄与することが分かっているため、脂肪分の多い食事を摂った後の血中中性脂肪濃度の上昇抑制は、ヒトにおいて有益であると述べています。

✔アウトカム
食後の血中中性脂肪濃度測定など
✔介入期間
単回
✔対象者
健常者から高コレステロール血症および高トリグリセリド血症患者
✔注意点

科学的根拠を評価する際は、被験食品または基準食品を摂取させ、摂取前及び摂取後の適切な時間に血中中性脂肪濃度を測定することが望まれています。適切な時間とは、被験食品または基準食品を摂取させた30分後と60分後に測定を行い、その後は1時間ごとに測定し、少なくとも4時間の測定を実施することなどが述べられていました。

食後の正常な血中中性脂肪濃度を評価するための明確なカットオフ値が無いため、試験のプロトコル内で、正常な血中中性脂肪濃度を定義することが求められています。

対象者については、生活習慣 (食事療法など)のみで治療を受けている高コレステロール血症および高トリグリセリド血症の患者を対象とした試験結果を、これらのヘルクレームの科学的根拠として使用することができるとしています。また、コレステロール低下薬 (スタチン系薬剤など) による薬物治療を受けている高コレステロール血症の対象者や、中性脂肪低下薬 (フィブラート系薬剤など) による治療を受けている高トリグリセリド血症の対象者の場合、被験食品または機能性関与成分との間に相互作用が無いかを検証することも必要です。食後の血中中性脂肪濃度の低減に関するヘルクレームを謳った食品については、科学的根拠の評価を実施したが、他の研究で報告がまだされていないため、誇大した食品であると評価されたものもあると述べられています。

③血中ホモシステイン濃度の維持に関して

血中のホモシステインの濃度が高くなると、動脈硬化などの心血管疾患の危険因子となることが分かっています3,4)。そのため、ホモシステイン代謝が正常に維持されることは、ヒトにおいて有益であるとしています。

✔アウトカム
液体クロマトグラフィー質量分析法 (LCMS/MS) など
✔介入期間
長期間 (8週間など)
✔注意点

介入期間に関して、ホモシステイン濃度は、介入開始から4週間程度で有効性が見られる傾向にあるが、そのような有効性を見るのに必要な期間は、試験の特性 (適切な導入期間など) および介入の性質について依存する可能性があるため、より長期間(例:8週間)にわたって被験食品または機能性関与成分を継続的に介入した場合の効果の持続性に関する証拠を示すことが望ましいとしています。

本ヘルスクレームを謳ったいくつかの機能性関与成分中で、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6などの必須栄養素は、本ヘルスクレームに適した成分であるとしています。また、ベタイン (およびベタインの前駆体となりうるコリン) に関しても、本ヘルスクレームにおいて適切な成分であると評価されています。理由としては、ベタインは肝臓でベタイン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼという酵素によるホモシステインの再メチル化においてメチル供与体として作用することや、ヒト介入試験でベタイン (またはコリン) 投与後の血漿ホモシステイン濃度の有意な低下が一貫して示されていたためと述べています。

心血管の健康について

Regulation (EC) No 1924/2006では、「疾病リスク低減」を、ある被験食品、またはその機能性関与成分の一つを摂取することで、ヒトの疾病発症のリスク要因が大幅に低減することを提示、示唆、暗示するヘルスクレームと定義しています。それは、疾病のリスクを直接的に低減すること (疾病の予防など) に言及したヘルスクレームは、食品に対して行うことができないためであると述べています。また、科学的な観点から、疾病リスクの低減 (すなわち、疾病の結果に対する被験食品または機能性関与成分の効果) は、疾病のリスクの低減よりも、疾病リスクの低減の主張を立証することを強調することが求められているとしています。しかし、冠動脈におけるイベントなどの心血管系の疾患リスクの低減に関する評価は、科学的根拠を評価するうえで十分では無いとしています。Regulation (EC)No 1924/2006に規定されている要件を満たすために、被験食品または機能性関与成分の摂取が1つ以上の疾患のリスク要因を低減 (または有益に影響) する根拠を示す必要があるとしています。具体的な例を以下で説明します。

CHDのリスク低減ついて

CHDのリスク増加には、血中LDL-C濃度の上昇が関連していることが分かっており、食生活の改善または薬の投与は血中LDL-C濃度の低下、そしてCHDのリスク低減に寄与することが分かっています。また、動脈血圧の上昇も、CHDのリスク増加に関連することが分かっています。

✔アウトカム
  • ・LDL-C濃度
      LDL-C濃度測定など
  • ・動脈血圧
      SBPなど
✔注意点

SBPを評価することができれば、脳卒中リスク低減に関する科学的根拠として用いることが出来るとしています。

CHDに関するいくつかの疾患リスク低減を謳ったヘルクレームの食品の中で、リミコール、植物ステロール、植物スタノールエステル、ダナコール® (低脂肪発酵乳製品)、オーツ麦由来β-グルカン、大麦由来β-グルカン、トランス脂肪酸不使用スプレッドは、継続的な摂取によりLDL-C濃度が持続的に低下するという結果に基づいていて、ヘルクレームに対する評価が実施されており、疾患のリスクを直接低減させる (すなわち、疾患の転帰に関する) 結果は示されていないことから、適切な評価が実施されている食品であるとしています。

LDL-Cと動脈SBP以外の危険因子に関連した疾病リスクの低減の科学的根拠を評価するためには、疾病の発生率の低減を評価することが必要ですが、発生率を示す結果だけで評価することはできないとしています。そのため、被験食品または機能性関与成分の介入により、1つ以上の危険因子の有益な変化 (例えば、血中TG濃度の低下、血中ホモシステイン濃度の低下、血中HDL-C濃度の上昇)を示す必要があるとしています。

動脈硬化の軽減による心血管疾患のリスク低減に関するヘルスクレームを謳った食品の中で、動脈硬化度を下げることで心血管疾患のリスクが低下する結果が示されていないため、誇大した食品であると指摘されたものがあります。本ヘルスクレームにおいて、被験食品等の介入が危険因子および心血管疾患の発症を減少させるという結果が得られた場合に限り、動脈硬化の軽減による心血管疾患のリスク低減を表示することが出来ると述べています。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】
  • 1) Turck D, Bresson J, Burlingame B, et al. Guidance for the scientific requirements for health claims related to antioxidants, oxidative damage and cardiovascular health. EFSA J. 2018;16(1):1–21.
  • 2) Geraghty AA, Alberdi G, O’Sullivan EJ, et al. Maternal Blood Lipid Profile during Pregnancy and Associations with Child Adiposity: Findings from the ROLO Study. Luo Z-C, editor. PLoS One. 2016;11(8):e0161206.
  • 3) 鏑木淳一. 血漿総ホモシステイン濃度測定の臨床的意義 -人間ドックにおける有用性-. 人間ドッグ. 2007;22(3):50–4.
  • 4) 橋本隆男, 篠原佳彦, 長谷川弘. ホモシステイン代謝. 薬誌. 2007;127(10):1579–92.

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