前々回に引き続き、欧州食品安全機関 (EFSA) の発行するガイダンスについてご紹介します。今回は『抗酸化作用に関する機能性評価』について、アウトカム設定や科学的根拠の説明の際に役立つ情報をお伝えします。

EFSAガイダンス
~抗酸化作用に関するヘルスクレーム~1)

体細胞及び分子 (タンパク質、脂質、DNAなど) に対する、酸化的損傷 (紫外線など) からの保護について

タンパク質、脂質、DNAなどを紫外線などの光酸化から保護することは、ヒトにおいて有益であるとしています。

✔アウトカム2–4)

総抗酸化能 (Total Reactive Antioxidant Potential; TRAP)、トロロックス等価抗酸化能(Trolox-Equivalent Antioxidant Capacity; TEAC)、第二鉄還元/抗酸化能(Ferric Reducing Antioxidant Potential; FRAP)、酸素ラジカル吸収能(Oxygen Radical Absorption Capacity; ORAC)、鉄酸化性キシレノールオレンジ法 (Ferrous Oxidation–Xylenol Orange; FOX) など

✔注意点

ヨーロッパで発売される健康食品のヘルスクレームは、一般的に欧州連合が定めた食品の強調表示規則 (Regulation (EC) No 1924/2006) に定められていますが、in vitroでのフリーラジカル消去能に関する、被験食品および機能性関与成分の特性などの評価は、ヒトにおいても同様の生理学的な効果を発揮するか明確では無いと述べています。
アウトカムの方法を用いて、血漿での総合的な抗酸化能の変化をヒトで試験することが求められています。
「早期老化からの細胞の保護」、「健康的な老化」などのヘルスクレームは、先述のEC No 1924/2006 で定められた基準に準拠していないため、用いることはできないとしています。
また、抗酸化作用は、①栄養素による抗酸化作用、および②栄養素以外による抗酸化作用があるとされています。
本ガイドラインにおいて、一部の栄養素の抗酸化作用は、ヒトにおいて有効性が確立されていると述べられています。

①栄養素による抗酸化について

ビタミンやミネラルの中には、細胞や分子を酸化的損傷から保護する酵素を活性化させるものがあることが分かっており、ビタミンC、ビタミンE、セレンなどは、DNA、タンパク質、脂質を酸化的損傷から保護する役割や作用機序が確立されていると述べています。
また、栄養素以外の成分について、抗酸化作用があるとされる成分の評価方法が述べられていました。

②栄養素以外による抗酸化について

細胞や分子を酸化的損傷から保護する人の抗酸化ネットワークに属する酵素の機能に関与しているビタミンや必須ミネラルが供給されている状況では、非栄養素によって抗酸化酵素が誘導されたかを評価することはできないとしています。また、血漿の全体的な抗酸化能の非特異的な変化も評価できないとしています。非栄養素によって、抗酸化酵素 {スーパーオキシドディスムターゼ (SOD)、カタラーゼ (CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ (GSH-Px)、ヘムオキシゲナーゼ (HO)など)} の特異的な誘導や、タチオンやグルタチオン/グルタチオンジスルフィド (GSH/GSSG) 比の低下の抑制などを測定するだけでは、酸化的損傷からの保護を評価するには不十分であるとしています。紫外線などの光酸化によるダメージから生体内の細胞、分子 (②-1 タンパク質、②-2 脂質、②-3 DNA) を保護するといったヘルスクレームは、ヒト試験で評価することが求められており、②-1から②-3に対する酸化的損傷の少なくとも1つの適切なバイオマーカーで変化をみることが必要であると述べています。また、単独のバイオマーカーで評価することは、できないとしています。

②-1 タンパク質の酸化的損傷からの保護

生体内のタンパク質の酸化的損傷の直接的な測定 (タンパク質中のアミノ酸の酸化変化の測定など) が、血漿中の分子を他の物質 (チロシンニトロ化生成物など) から同定・分離することが可能であれば、液体クロマトグラフィー質量分析法 (Liquid Chromatography-Mass Spectrometry; LC-MS) などを使用できるとしています。また、ジニトロフェニルヒドラジン誘導体を用いた酵素結合免疫吸着法 (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay; ELISA) によるタンパク質酸化生成物 (タンパク質カルボニルなど) の測定は、血液また標識組織 (皮膚など) で直接評価する場合にのみ、生体内のタンパク質の酸化的損傷を測定するバイオマーカーとの組み合わせによってヘルスクレームに対する評価が出来ると述べています。

②-2 脂質の酸化的損傷からの保護

脂質の酸化損傷 (脂質過酸化) の直接的な評価は、24時間尿中のF2-イソプロスタンの変化を、適切なクロマトグラフィーと質量分析 (ガスクロマトグラフィー-質量分析やLC-MSなど) を組み合わせ、ヒトで試験することが求められています。なお、特異的なモノクローナル抗体などの免疫学的手法を用いて血液中の酸化LDLをin vivoで測定することで、脂質の酸化的損傷を評価することが可能であるとしています。
化学発光液体クロマトグラフィー (CL-LC) を用いて血液や組織中の脂質ヒドロペルオキシド (ホスファチジルコリンヒドロペルオキシド; PCOOHなど) を測定することも、生体内の脂質過酸化のマーカーとして用いられていますが、PCOOHとF2-イソプロスタンを組み合わせて測定することで、ヘルスクレームに対する評価として望ましいとしています。
脂質過酸化の評価指標として、チオバルビツール酸反応性物質、マロンジアルデヒド (Malondialdehyde; MDA)、パラオキソナーゼ、共役ジエンなどは適切では無いとされていますが、血液や組織のMDA濃度は、MDA分析に適切な方法 (液体クロマトグラフィーなど) が用いられた場合にのみ、科学的根拠の補助因子として用いることが出来るとしています。

②-3 DNAの酸化的損傷からの保護

細胞のDNA損傷を調べるのに用いられるコメットアッセイ5) (Single-cell Microgel Electrophoresis; SCGE) の改良版 (酸化したピリミジンを検出するためにエンドヌクレアーゼIII、酸化したプリンを除去するためにホルムアミドピリミジンDNAグリコシラーゼなどを使用) を用いて、DNAの酸化的損傷 (DNAの塩基の酸化など) をin vivoで直接測定することができるとしています。また、この方法は、絶対値を得られませんが、対象との定量的な比較が可能である (循環しているリンパ球で評価した場合、細胞内のDNAの酸化損傷を直接反映するなど)。
従来のSCGE5)を用いたDNA損傷の測定は、DNA鎖の切断を検出するものであり、酸化的損傷を特異的に見るものでは無いと述べています。また、ex vivoでの酸化促進負荷 (Pro-oxidant challenges) を行い、酸化的損傷を測定する方法も、DNAの酸化的損傷の評価は適切では無いとしています。
血液 (リンパ球など)、組織 (皮膚など)、尿中の8-ヒドロキシ-2-デオキシ-グアノシン (8-OHdG)の測定6)は、DNAの酸化損傷の評価に用いられています。遊離の8-OHdGは、酸化的損傷と切除修復に起因しますが、遊離塩基やヌクレオチドの酸化、他の核酸の酸化、サンプルの処理時の人為的影響に起因することもあります。また、尿中の8-OHdGは、細胞内のDNA酸化を直接反映するものではないが、分析に適切な方法 (液体クロマトグラフィーなど) が使用されていれば、DNAへの酸化的損傷の直接測定と組み合わせて使用することができるとしています。

DNAの鎖切断 (Strand breaks) からの保護について

DNAの鎖切断は、DNA修復過程で自然に発生しますが、環境因子 (変異原性物質や酸化促進物質、放射線など) によって誘発されることもあります。このようなDNAの鎖切断は、DNAの特性を変化させ、DNAの複製や翻訳の過程で異常を引き起こす可能性があります。そのため、細胞の機能や生存を維持するために、DNAの鎖状切断を抑制することは、ヒトにおいて有益であるとしています。

✔アウトカム

コメットアッセイ (SCGE)5)など

✔注意点

DNAの鎖切断を抑制することをヘルスクレームとした食品の中で、他の研究での再現性が得られていないこと、メカニズムの根拠が示されていないことから、誇大とみなされたものもあると述べていいました。

弊社では、アウトカムの設定に関する不安や悩みなどを出来る限り解消するため、過去の知見や関連する文献を網羅的に調査し、より質の高い臨床試験を目指して適切なプロトコルをご提案します。さらに、消費者庁への届出代行や消費者庁からの問い合わせへの対応など、臨床試験から受理後の関連業務までの「トータルサポート」に取り組んでおりますので、ぜひお気軽にご相談ください。引き続き、皆様にご満足いただけるような情報をお伝えしていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

【参考文献】
  • 1)Turck D, Bresson J, Burlingame B, et al. Guidance for the scientific requirements for health claims related to antioxidants, oxidative damage and cardiovascular health. EFSA J. 2018;16(1):1–21.
  • 2)渡辺純, 沖智之, 竹林純ら. 食品の抗酸化能測定法の統一化を目指して ORAC法の有用性と他の測定法との相関性. 化と生. 2009;47(4):237–43.
  • 3)原田和樹. 調理科学における抗酸化能研究 前編. 日本調理科学会誌. 2013;46(5):343–6.
  • 4)DeLong JM, Prange RK, Hodges DM, et al. Using a Modified Ferrous Oxidation−Xylenol Orange (FOX) Assay for Detection of Lipid Hydroperoxides in Plant Tissue. J Agric Food Chem. 2002;50(2):248–54.
  • 5)翁祖銓, 小川康恭. コメットアッセイ:遺伝毒性を検出するための強力な解析法. 労安全衛研. 2010;3(1):79–82.
  • 6)酒居一雄, 越智大倫, 竹内征夫. 酸化ストレスマーカー8-OHdG. 生物試料分析. 2009;32(4):297–300.

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